『高校生のキャリアノート』活用実践報告2011学習体験を通じたキャリア育成の実践 高校生のキャリアノート 紀南高校における『キャリアノート』の活用と進路指導 三重県立紀南高等学校  池上 亮教諭
高知県立伊野商業高校

 三重県の最南端にあって熊野灘を望み、近くには世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道熊野古道」がある地域に、昭和37年、御浜町、鵜殿村、紀宝町、紀和町の旧4か町村の努力で創立された紀南高等学校は、部活動も活発に行われ、この48年間で98000余名の有為な人材を輩出し、社会に大きく貢献してきた。
 平成19年には、県内で初の「コミュニティスクール」に指定され、地域に貢献し地域に支えてもらえる学校づくりを進めている。生徒や保護者、地域の要望にそった教育内容を準備するために、「生徒には希望を 保護者には夢を 地域には信頼を」を学校像として目指し、地域に密着した、とてもしっかりとつくりあげられた進路指導・キャリア教育が行われている。

 

コミュニティスクールとしての取り組みと期待できる変化

紀南高校写真 紀南高校は、平成19年に県内では初、全国でも3番目となる「学校運営協議会を設置する学校」(コミュニティスクール)に指定された。コミュニティスクールとは「地域の学校」という意味で、保護者の方や地域の皆さんのご要望やご意見を学校運営に直接反映していこうとする学校である。本校はこの制度を導入し、地域に貢献し、地域に支えられる学校作りを進めている。特に、部活動、生徒会活動、ボランティア活動を活発に展開し、地域に信頼され、社会を支える人材の育成を目指している。このような取り組みが評価され、平成20年度に三重県の率先実行大賞発表会にて「ベストエール賞」を受賞した。


 本校は、48年前に地域の強い要望で設立されたが、近年は、過疎化や少子化などの影響から生徒数が減少し、存亡が問われる状況であった。このような中、「紀南地域高等学校再編活性化推進協議会」での論議を続け、もう一度開校当時の精神に立ち返り、「地域の学校」として再生したいと考えた。
 地域の方が学校運営に関わり、その声が生かされることで今まで以上に地域と密着した学校として、地域の方が学校に何を望んでいるのかを今まで以上に意識しながら教育活動を行うことになる。また、「地域とつながる活動」を進めることは、生徒一人ひとりと地域との関わりが増し、保護者や地域住民の方が、学校教育活動に参画する機会が増え、その結果、より多くの方々に学校の様子や生徒の姿を直接知ってもらい、教育活動に対して様々なアイディアや協力が得られるのではないかと期待している。
 学校と家庭・地域住民が互いに足りないところを補い合い、高め合う、双方向の信頼関係を築き上げていくことで、「地域の学校」として生まれ変わり、学習者起点の教育環境のさらなる向上を図っていこうと考えている。

 

紀南高校の進路指導とキャリア教育

年間計画 年間計画<クリックで拡大>  紀南高校では、「キャリア教育の充実を目指す」、「基礎学力向上と学習習慣の確立に努める」、「計画的、継続的、組織的な指導を行う」ことを努力目標に定め、インターンシップや「ちりつも」学習、スケジュールノート「KOMAME」など、学校独自の教材や工夫により、生徒にあったきめ細やかな指導を行っている。また、本校への入学者はほぼ地元の出身者で占めているため、そういった地域の状況を活かし、本校と近隣の4つの小・中学校が連携して、社会見学・職場体験・インターンシップを軸としたキャリア教育を系統づけた児童・生徒のキャリア発達を支援する取り組みや学校間交流を行うといった事業を進めている。


キャリア教育支援プログラム キャリア教育支援プログラム <クリックでPDF>  また、本校においても「総合学習の時間」をキャリア教育の一環と位置づけて様々な内容を行っている。1年次には、進路意識を育成し、将来の進路選択への自覚を高める目的で、職場見学、農業・林業体験、上級学校体験に分かれた体験学習を「進路研究」という名称で実施し、「自己理解」をキーワードに組み立てている。2年次においては、体験学習を基に「コミュニケーション能力の育成」をキーワードに組み立てている。3年次では、全職員による面接・作文指導など「進路実現」をキーワードに組み立てる一方で、「消費生活講座」や「一人暮らしセミナー」など、社会人として生きるための取り組みも実施している。

 

「キャリアノート」を使った授業

 入学した生徒の中には、まだまだ目的意識や将来設計の意識が希薄な者が多い。そんな中で、生徒一人ひとりが、より早い時期から、自己の進路に向け設計する意識を高め、自己理解を図り、社会や職業についての理解を深め、働くことの意義について考える、そして勤労の尊さを理解し、進んで社会に貢献しようとする心情を育て、真剣に将来を設計しようとする能力を育成するために、『キャリアノート』を使用した授業を1年生に実施した。


指導案 指導案<クリックで拡大>  1年生「総合学習の時間」の担当者と学年担任団が打合せを行いながら、クラス単位で実施した。生徒によって偏りはあったが、大体の生徒は真剣に取り組んでいた。チェックシートやクイズ方式の問題には楽しそうに取り組んでいたが、文章化する問題では苦労する生徒も見られた。また、担任によっては、出来なかった所を宿題としてやらせることもあった。



 『キャリアノート』の授業を行った生徒からは、「自分に合った職業や進路について改めて見直し、考えを整理することが出来た」、「職業など、自分の知らなかったことがたくさんあった」、「今まで人と勝手に話をしていたが、人の表情を見て、興味があるのかどうか考えながら話す様になった」などの感想があがった。

 全体としては、テーマ20<コミュニケーションスキルズ>にある「YES・NOテスト」や点数化する「チェックシート」はよく取組んだようであり、今後、コミュニケーション力を将来身につけていくための良い意識付けとなったように感じた。テーマ2<入門自分発見>では、入学当初の生徒の感じている事が良くわかり参考になった。また、テーマ1<高校生活レッツスタート>の「行事カレンダー」は高校の行事を理解するのに効果的であったように思われる。「総合学習の時間」の計画に組み込んで、年間の流れとの関係を考慮しながら行ったことは、他の行事と良い連携ができたと実感した。
 中にはただやっているだけに感じられる生徒もいて、どうやって気持ちまで響くように指導するか、とういことや、クラス全員のノート点検は、担任への負担、などの課題が残った。今後は、クラスによる進度のずれを修正するための坦任団同士の打ち合わせを密に行う必要もあると感じた。<生徒のアンケート>

 

まとめ

 本校の進路指導においての課題としては、まず、多くの成果を上げているインターンシップの取り組みを、今後も発展させ本校のキャリア教育の柱としてどの様に推進していくかということだ。さらに、「キャリア教育支援プログラム」については、ベースとなるものができたが、今後も更に実践を続けながら、点検・確認していく必要がある。そして、プログラムに沿ったキャリア支援を行う中で、生徒の変化の検証も必要である。また、地域に貢献し、地域に支えられる学校作りをすすめていることから、地域とともに生徒を育てる体験重視の教育にもさらに取り組みたい。
 「総合学習の時間」を中心として展開されている進路講話や外部講師のガイダンス、面接指導などを更に充実させ、「ちりつも学習」やスケジュール記録ノート「KOMAME」も改善しながら進めていきたいと考えている。


指導案  このような取り組みを進めていく中で、現在の厳しい雇用状況において、地元志向の強い生徒が職種を選ぶ余地がないという現状をどのように対処していくかが進路を決めるうえでの課題となっている。
 今後は、生徒達の希望を叶えるために、低学年からの系統づけた指導を更に充実させ、早い時期に進路に対する意識づけが必要であると考えられる。今回の『キャリアノート』を使った授業を、それらに上手く活用していくことができれば、効果が期待できるのではないかと感じた。

 

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