『高校生のキャリアノート』を活用した
進路学習の取組みについて

1. 本校の概要

 本校は、香川県中賛地区の中心街丸亀市にあり、平成29年に創立100周年を迎えた男女共学校です。1学年普通科5クラスの内、1クラスは商業コースになっています。卒業生の進路状況ですが、ここ5年は4年生大学45%、専門学校25%、就職15%、短大10%、その他5%、の割合となっています。

 

2. 本校の特色ある活動

(1)集団活動

 1年生に対して、入学まもない4月中旬に、「集団指導」を行います。合同体操、行進練習などを行い、集団行動の規律を学ぶとともに、自ら考えて行動する力を養い、さらにクラスの親睦、学年団全体の団結を強めることにも役立ちます。また、本校の伝統的行事として、二人三脚ならぬ「35人36脚」(資料1)を体育祭で行います。すべてのクラスが参加し、勝ち抜き戦で優勝を目指します。

▼資料1 35人36脚 体育祭本番でのレース

 

(2)防災活動

 自然災害が少ない県の一つとされていた香川県ですが、最近では大雨に因る災害が起こるようになり、防災教育にも力を入れるようになりました。1年次10月に市職員による「防災講演会」(資料2)を実施し、各クラスで意見交換を行った後、「防災訓練」として簡易担架の作成、土のう作り、心肺蘇生法、消火訓練等、実習を行います(資料3)。2年次5月には、防災についてさらに勉強するため、12の専門講座を設定した「防災講演会<班別講演>」を実施し、少人数で知識を深めます。その後、各班で研究を進め、11月に「防災研究発表会」で、各クラスの代表班が、研究結果について2学年全員の前で発表します。

▼資料2 丸亀市危機管理職員による講話

▼資料3 土のう作り

 

(3)主権者教育

 2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられたため、有権者として政治に参加するための教養を身に付けさせることを目的に、2年次11月に「主権者教育」として、模擬投票(資料4)を行います。朝に選挙公報(仮政党の選挙公約)に目を通した後、7時限目にまず丸亀市選挙管理委員会による講話を聞きます。その後、クラスの代表者による投票を行います。翌日、選挙や政治への関心がどう変わったか、アンケートを実施した後、12月の総合的な探究の時間で、振り返り指導を行う流れとなっています。

▼資料4 模擬投票の様子

 

3.『高校生のキャリアノート』を活用した取り組み

①〈テーマ4 インタビュー職業人〉(1年7月~)

 1年次の1学期は、与えられた課題を淡々とこなしているだけで、将来の進路や職業について真剣に考えている生徒は少ないため、1学期後半から2学期前半にかけて、①将来の進路を考える、②職業を詳しく調べる、③正しい敬語の使い方を覚える、④訪問する企業を詳しく調べる、を目的として、『キャリアノート』〈テーマ4 インタビュー職業人〉を活用しました。
 まず、7月上旬にWORK1からWORK4に取り組んで、インタビューの内容から言葉遣いまで、事前準備を万全にしてから、夏休みにインタビューシートを使って職業人インタビューを行いました。その後、9月に「職業インタビュークラス内発表会」を開きました。各クラス4~6班に分け、一人3~5分程度で、インタビューした内容を発表します。独自に作成した「職業インタビュー グループ発表 評価シート」(資料5)に、各自が発表者それぞれの評価(声、内容、態度をA~Cで評価)と、気づき・コメントを付け、どの内容が一番良かったか、「ベストプレゼンター」を選出しました。

 

▼資料5 職業インタビュー グループ発表 評価シート

 

「職業インタビュー」を受けていただいた地元企業のほとんどの方が、本校の卒業生だったため、母校の歴史を知ることが重要だと考えた結果、小さな取り組みとして、9月下旬に「城西高校を知ろう」という、本校の歴史や伝統をクイズにして取り組ませました。自校に誇りを持ち、より充実した学校生活を送れるよう指導に生かすことが目的です。
 さらに派生して、10月下旬から12月上旬にかけて「地元のガイド作り」(資料6)にも取り組ませます。各自で、旅行者が丸亀市または近隣の市町に、一泊二日で滞在する時に役立つガイドを作ります。旅行者の設定(どこから来た、人数、家族や友人等の関係、等)も各自で考えさせます。最後に、体育館で発表会を行います。

生徒の感想

・将来の職業について真剣に考え、具体的に調べた

・必要な資格や、進学すべき学校が分かった

・正しい敬語を使えるようになった、等

▼資料6 地元のガイド

 

②〈テーマ13 自己実現のためのライフプラン〉(2年12月〜)

 2年次の1月に、『キャリアノート』〈テーマ13 自己実現のためのライフプラン〉を活用しました。昨年同じテーマに取り組ませたところ、知識不足から十分な将来設計ができなかったという反省があり、今回は事前に『SDGs 2030年までのゴール』(みくに出版)という書籍を読ませ、冬休みに、独自に用意したフォーマットに「読書メモ」を作成するようにしました。同書にある17の具体的な目標から、興味のわいたもの、自分の進路に関係あるものなどを選ばせ、気になる点等を書かせることで、人生の価値観や将来設計に関する知識が蓄えられ、〈テーマ13〉の授業に役立ちました。
 〈自己実現のためのライフプラン〉WORK1「こんなときどうする?」では、将来起こりそうな12の出来事(高校の科目選択、就職後の配置、結婚、等)についてそれぞれ2つの選択肢が設けられ、自分ならどちらを選ぶかを考えます。さらに、その選択はどんな価値観に基づいてなされたかについても選びます。今年は、生徒の選択のすべてを統計にとりました。選択にあたって重視した価値観としては、「自分らしさ」が圧倒的に多く、次いで「人間関係」「愛情」「責任」と続きました。私たち教師世代に多かった「お金」「地位」「名誉」は非常に少なかったのが、印象的でした。
 次の架空の4人家族(両親と兄、妹)それぞれのライフプランを考える「笹原家の人生模様」については、父親と妹のライフプランについて、それぞれ両極端の意見(仕事か家庭か、挑戦か安定か)が出て、議論が盛り上がり非常に面白かったです。ライフプランを立てる際に、複数のイベントワード(入社、結婚、資格取得、ボランティア、等)が用意されているのですが、教師側であらかじめ選んであげた方が、生徒も書きやすかったようでした。
 WORK2「目標実現アクションプラン」は、昨年は「今後5年間の目標課題」について具体的に書ける生徒は少なかったのですが、今年は上記の工夫をした結果、書ける生徒が増えました。また、目標実現に向けてやるべきこととして「新聞やニュースを見て知識をつける」という生徒が多かったため、教師が、実際の新聞記事とそれに関する問題を作成して解かせるプリントを用意し、各自解いて提出させる「新聞week」という企画も実施しました。さらに、「課題研究SDGsのための読書メモ」(資料7)と称したプリントを用意し、新たなテーマを設定した後、それに関する書籍を一冊熟読し、興味点・疑問点を7〜10点まとめるという宿題を、2年次の春休みに課しました。

 

▼資料7 研究課題 SDGsのための読書メモ

 

③〈テーマ19 自己PRスキルズ〉(3年5月〜)

 3年次の5月に、『キャリアノート』〈テーマ19 自己PRスキルズ〉を活用しました。昨年の反省を踏まえ、今年は教材に書かれている重要なメッセージ(自己PR=自分を売り込む×、相手とよい関係を築く〇、等)を忘れないように、生徒各自が作成している「面接ノート」(資料8)に、ワープロで書いたものを貼り付けるようにしました。また、WORK3で書いた各自の「自己PR文」の中で、具体的に書かれている部分にアンダーラインを引いて、記憶に残るように工夫しました。

 

▼資料8 面接ノート

 

 

④〈テーマ24 面接試験トレーニング〉(3年7月〜)

 3年次の7月に、『キャリアノート』〈テーマ24 面接トレーニング〉を活用しました。面接試験の目的、種類、服装や持ち物、流れが分かるとともに、話すことの整理、印象をよくするテクニックが身につくテーマです。重要な事柄(笑顔、間を取る、面接者を見る、最後まではっきりと、等)については、各自が持っている本校独自の「面接指導票」(資料9)に大きく書いたものを貼るようにしました。
 WORK2「面接試験で話すことを整理しよう」では、3人一組で模擬面接を行いましたが、試みとして、同じ大学を志望する生徒の「志望理由」から、一番よかったもの(A)と普通のもの(B)選び、それぞれ表情、抑揚を変えて話したとき、どのパターンが受けがよかったかを調べました。面接時は、暗記したものを間違わずに話そうとすると淡々と早口になりがちで、いかに表情や抑揚が印象を変えるかがよくわかりました。

 

▼資料9 面接指導票

 

4. まとめ

 本校では、ほとんどの生徒が推薦入試で進路を決めるため、志望理由書や小論文などの文章を書く力に加えて、面接において自分の意見を明確に述べる力が必要になります。これまでもしっかりと指導は行ってきましたが、重要な事柄を忘れたり、何度練習してもレベルアップしない生徒が必ず見受けられました。そこで『高校生のキャリアノート』の活用をより効果的なものにするために、いろいろな試みを行ってきました。その結果、以前に比べて意欲的に取り組む生徒が増えたことは大きな成果でした。特に「SDGsの読書メモ」を作成する過程で多くの知識を得たことで、文章を書いたり話したりすることが比較的スムーズにできるように成長しました。
 また、産業能率大学が開発した「主体的学習者養成プログラム」「協働的学習者育成プログラム」を導入したことで、普段は受け身の授業態度である生徒が、各自で真剣に考え、積極的に発言している姿が多く見られるようになりました。確かに成果のあった取り組みがたくさんあったことは事実ですが、まだ試行錯誤の段階であり、取捨選択しながらよりよいものに改善していくことで、3年間の明確な計画と目標を確立することが今後の課題となります。

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