『高校生のキャリアノート』を活用した
進路学習の取組みについて

1. 本校の概要

 本校は、大正10年度に開校し、2020年度に創立100周年を迎えた、伝統ある商業高等学校です。生徒の人数は、1年生が3クラス、2年生が4クラス、3年生が4クラスで計416人となっています。このうち男子65名、女子351名で、男子生徒の割合が16%です。「地域社会で活躍する人づくり」「地元産業界に必要とされる人材育成」を教育目標に掲げ、「基本的生活習慣の確立」「部活動全員加入」「資格取得」を学校生活の3本柱としています。
 1年次には共通科目を履修しながら各種検定の2級取得を目指します。2年次に国公立大学や難関私立大学、公務員や医療系を目指すカレッジコースと、情報分野やビジネスに関する知識・技能を学ぶビジネスコースに分かれます。生徒自身の進路にあったコースを選択できるようにしています。

 

2. 就職状況と進路状況

 小松市の特徴として、建設・機械メーカーやその関連企業、工場が多いことから、製造業に従事する方の割合が高いという点があります。また、北陸新幹線が福井県の敦賀まで延伸する影響で、建設業において人手不足となっています。
 本校の2021年度の3年生の就職状況は、ありがたいことに、就職希望者約80名に対して、県内求人数は400件でした。その他に県外求人も同等の数をいただいています。しかし、求人件数だけを見れば多いように見えますが、生徒は例年みな同じような企業を希望しますので、実際は生徒の希望が同じ求人に重複することもあるというのが現状です。
 職種別の分類では、生産工程に従事する生徒が約半数です。産業別の内訳でも、半数以上の生徒が製造業へ進んでいます。公務員は公安系に進む者が多く、県警察本部や市消防本部などに就職しています。2021年度は日商簿記検定1級を取得した生徒が、税務職員に合格しました。
 一方本校では例年約半数の生徒が進学を希望しています。そのほとんどが各種推薦や総合型選抜など、一般入学試験以外の方法で進学しています。2021年度の進学先の割合は、4年生大学36%、短期大学22%、看護学校5%、その他の専門学校37%となっています。経済学部や経営学部など、本校で学んだ知識をさらに伸ばせるような学部・学科を選択する生徒がほとんどです。

 

3. 進路指導の取り組み

 本校の就職と進学の割合は例年約半分ずつです。そこで、生徒が自分自身の進路をイメージできるよう、1年次より進学・就職に関わらず両方の進路を理解させるための取り組みを行なっています。さらに、進学希望者、就職希望者それぞれに合わせた取り組みを実施しています。
 本校は、学年ごとに進路目標を決めています。1年次の目標は「自己を知る」です。学習や部活動、地域社会との関わりの中で、職業の適性を知り、就職・進学ともに理解し、進路実現に適したコースを選択するという目標です。1年次より企業ガイダンスや上級学校見学会に全員参加するように指導します。その中で視野を広げ、就職・進学を選んでほしいと考えています。
 2年次の目標は、「自分の将来の設計を考える」です。学習や課外活動を通して、地域産業や進学について理解を深めます。自己の能力や適性を的確に理解し、進路実現に向けて将来設計を図るという目標です。2年次は、ロータリークラブによる職業講話や、夏休み期間を利用した企業実習などがあります。地元企業で勤労体験を行わせてもらい、その体験記を11月に企業実習報告会という形で1年生にプレゼンテーションを行います。
 3年次の目標は、「進路実現」です。これまでの活動を通して、自己の能力適性を的確に判断し、卒業後の進路について具体的な目標と課題を定めます。職業人として社会責任を果たす自覚を身につけ、社会人意識とビジネスマナーを高めることや、上級学校での自己の目標を計画し、その実現のためのスキルを身につけることが目標です。就職希望・進学希望に分かれ、より具体的に進路活動の進め方や注意点などを学びます。消費啓発講座、就職内定者セミナー、面接・マナー指導、就職内定・進学の合格体験記の作成、年金セミナーなどを行っています。
 本校では「キャリアマップ」と呼ばれるものを進路指導で使用しています(資料1)。近年の進路の多様化に伴い、進路の共通指標としてこの「キャリアマップ」を生徒に示しています。学力、評定、資格、英語検定、就職先、進学先についての指標が書かれていますので、生徒は一目で自分の現在地点や努力目標がわかるようになっています。例えば、目標とする大学名を表から探し、その行を見ると必要な評定や資格の基準が書かれているので、あとどれくらい頑張ればいいのかがわかります。また、現状の成績から目指せる大学を探すこともできます。内容についてはその時の状況に合うように、毎年検討して変更しています。保護者の方にも見てもらうようにしています。

▼資料1 キャリアマップ(生徒・保護者・教員の共通指標)

 また、進路指導の1つとして、資格取得のロードマップも使います。上の枠に1年間の進路行事、真ん中の枠に試験の日程、下の枠に検定の日程が記載された表です。このロードマップを見ることで、自分に必要な資格の日程と他の行事を考え、年間計画を立てやすくなります。取得資格は調査書に記入したり、推薦基準になったりします。

 

4. 学校行事と関連させた『高校生のキャリアノート』の活用

 『高校生のキャリアノート』を活用した実践報告を行います。1年生に対して実施しました。例年1年生の段階では就職希望者が多いのですが、今年は進学希望者が多く、これまで以上にきめ細やかで、多面的な指導が求められています。そのような中で『キャリアノート』を活用し、生徒自身の進路選択に必要な知識や職業観、主体的に進路を考えようとする態度の育成を図りました。
 『キャリアノート』活用の留意点として、『キャリアノート』を単体で使うのではなく、年間行事計画に組み込むことで学校行事と関連させながら活用し、生徒たちが学校生活とのつながりを考えるきっかけになるようにしました。また、必ずしも毎年同じことをするのではなく、生徒の実態や、時代、社会的背景に合わせて教材や使い方を変化させています。

 

◎4・5月〈テ―マ2 入門 自分発見〉

 年度当初に実施される仲間づくり講座と、担任との面談週間の事後学習に活用するために、4・5月に〈入門 自分発見〉のワークを実施しました。目標は、「学習や部活動を通して自己の適性を知る」ことです。4月には担任との面談を行います。5月の仲間づくり講座におけるグループエンカウンターでは、他者から自己発見をする機会があります。ここで『キャリアノート』のワークを生かそうと思いました。ワークでは、自分自身で自分のことを見つめ直すところから、他人の目を通した自分、客観的なデータに基づいた自分、というように多面的に自分を捉えることができます。生徒からの感想には、次のようなものがありました。

・自分で思っている自分と、他人から見た自分は違うということに気づいた。

・高校にきて環境が変わったため、新しい自分づくりをしていきたい。

・データから自分が気づかなかったことを知ることができた。

▼仲間づくり講座 グループエンカウンター
 

▼〈テーマ2 入門 自分発見〉
 〈テーマ10 あなたの個性と適性〉

 

◎6月〈テーマ10 あなたの個性と適性〉

 続いて、6月に〈あなたの個性と適性〉を実施しました。ここでのワークは、キャリアパスポート説明会の事前指導と、本校で毎年実施される職業適性検査の事後指導に活用しました。「客観的なデータから自己理解と適性について考える」ことが目標です。自分の興味・関心や性格だけで進路適性を考えるのではなく、希望の職業に就くためのルートや条件も調べることで、進路についてより深く考えることができるようにしました。生徒は以下のような感想を話していました。

・自分の特徴を職業に結びつけることで、進路適性の判断の仕方がわかった。

・自分の得意なことや長所を知ることができた。また、今後どのような努力が必要かわかった。

 

◎9月〈テーマ6 進学いろいろ発見〉

 そして9月に〈進学いろいろ発見〉のワークを実施しました。Chromebookによる上級学校の調べ学習と、上級学校説明会及び職業講座の事前指導、上級学校見学会の事後指導に活用しました。この時期は、「地域社会とのかかわりの中で自分を知る」「就職・進学ともに理解する」という2点を目標にしました。本校では2020年度からChromebookを導入し、2022度には本格的に生徒一人1台の数が導入される予定です。〈進学いろいろ発見〉のワークの内容に沿って調べ学習を行い、上級学校説明会・見学会や職業講座に備えました。上級学校見学会では、金沢大学をはじめ、私立大学、短期大学合わせて石川県内6校の中から、一人2校希望の学校を選んで見学・説明を聞く機会となっています。
 活動を通して、ただ調べるだけでなく自分自身の場合に当てはめて考えることで、就職希望だった生徒が進学も視野に入れて進路について考え始めたというケースもありました。『キャリアノート』は、生徒の選択肢を広げるという点においても有効であったと思います。生徒にアンケートをとったところ、多くの気づきがあったようです。結果は、以下の通りです。

・就職しか考えていなかったが、上級学校を知ることができていい機会となった。

・進学しないとなれない職業があることを知った。

▼上級学校説明会

 

◎10・11月〈テーマ3 職業いろいろ発見〉

 10・11月には〈職業いろいろ発見〉のワークを実施しました。こちらも〈進学いろいろ発見〉のワークと同様、Chromebookによる職業調べ学習と、企業説明会の事前指導、2年生による企業実習報告会の事後指導での活用です。産業別・職業別の理解を深めることを目的に、〈職業いろいろ発見〉のワークの内容に沿ってChromebookで自ら職業について調べました。企業説明会では18社の企業にきていただき、その企業の方針や仕事内容、勤務形態などを直接聞くことができました。事前学習のおかげで、調べてわからなかったことや、話を聞いてより一層聞きたいと思ったことを質問する場面も見られました。
 2年生は夏休みに企業実習がありますが、実習後の企業実習報告会に1年生も参加します。お世話になった企業の方も招待しますので、1年生は企業の方と一緒に報告を聞くことになります。以下、この報告会に参加した1年生の感想です。

・数多くの職業があることを知り、自分が興味のある職業領域を理解できた。自分の将来の生き方を考えさせられた。

・企業は社会や地域貢献の役割を持ち、自分の仕事に誇りを持って働いていることを知って感動した。
今の学校生活をもっと頑張ろうと思った。

 『キャリアノート』を活用した調べ学習や、説明会・報告会を通して、これまで知らなかった職業領域にも触れ、より一層自分の進路について興味・関心を持たせることができたと思います。

 

◎1月 3年生による進路学習会

 企業実習報告会に加えて、自分の進路に見通しを持つための、他学年との縦のつながりとして、3年生からの進路学習会があります。進路を実現した3年生が、1年生に向けて進路に関するプレゼンテーションを行い、1年生は今後の進路選択の参考とします。大学、短大、専門学校の学校種別の進学グループや、公務員、事務系、製造系などの就職グループ、2つを混合したグループなど3グループに分かれ、1年生の3教室で説明します。本校では、マイスタータイムと呼んでいる朝の10分間を利用し、1日1グループの話を聞きます。3日間で3グループ全てのメッセージを聞くことになります。志望動機や目標設計、1年生へのアドバイスなどを聞き、自分の進路について考える機会としています。1年生は先輩のアドバイスを、メモを取りながら真剣に聞いていました。

▼進路学習会

 

5. 高校生の『キャリアノート』の実践 まとめ

 『キャリアノート』を活用したことで、年間の学習を通じて、「地域社会との関わりの中で自分を知る」という目標を達成できたように思います。学校行事の事前・事後指導に『キャリアノート』を取り入れたことで、生徒が自身のキャリアデザインについて考えることに役立ったと思います。
 『キャリアノート』のワークでは、まず生徒の興味・関心を深めることができたと思います。テーマごとに教師用〈授業サポートガイド〉があったため、学習のねらいに沿った発問や、留意点を意識した授業展開ができました。このサポートガイドによって、どの教員が『キャリアノート』を使っても、指導水準を保ったまま活用できるのではないかと思います。
 ステップを踏んでワークを進めていくことにより、生徒は自分自身に対する理解を深めました。さらにワークを通じて、実際に一人ひとり違った理由や気づきがあったため、多様性に深みを持たせることができました。また、それにより生徒自身が、私たちは一人ひとり違う、個々に特徴や性格を持った人間である、ということに気づくことができる点も、すごくわかりやすく作られていると感じました。そうやって自分で『キャリアノート』に書いてみることにより、自分のことを客観的に見ることができて、自分らしさや価値観を見出すことができました。
 年間の学習における『キャリアノート』の振り返りのアンケートを生徒に実施しました(資料2)。テーマごとに多数の項目の質問に答えてもらったのですが、全ての項目で「役立ったと思う」などの前向きな意見が90%を超えました。生徒自身もこの活動を通じて、自分の進路を考えるのに『キャリアノート』を活用して良かったと感じている証拠だと思っています。

▼資料2 アンケート結果

 

 最後に、実践を通じて感じた『キャリアノート』の展望です。『キャリアノート』の実施に当たっては、活用の目標を明確にすることで、目標達成のためのツールとして非常に効果的であると思いました。時代は今後も変化していきますし、学校によって生徒や地域の実態も異なっています。その時々の実態に応じて指導目標や指導計画を熟考し、『キャリアノート』をうまく取り入れることで、生徒のキャリアデザインに、より効果と可能性を広げると思います。また、グループワークやペアワークにも適しており、生徒の振り返り学習も楽にできるため、キャリア形成に必要な「プロセスを考えること」につながります。
 生徒の進路希望は多様化していますが、各生徒が自分の興味・関心に沿って進路を決定できるよう、『キャリアノート』を工夫して使うことができます。進路行事などに合わせて活用することで、生徒が地域や生活などとの幅広いつながりを実感する機会を提供することができます。他者や社会、学問との関わりや交流の中で自分を分析し、固定観念や枠にとらわれない考え方を身につけさせることができる教材だと思いました。

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