『高校生のキャリアノート』を活用した
進路学習の取組みについて

1. 本校の概要

 本校は、南は吉野山、北は滋賀県や京都の比叡山まで見渡せる、奈良県奈良盆地の中心に位置している学校です。7年前に普通科から、県下唯一の全日制総合学科「キャリアデザイン科」に改編しました。「キャリアデザイン科」は、経済産業省が提唱した「社会人基礎力」の養成を第1目標と掲げつつ、進路のミスマッチを防ぐため、希望進路先の長所・短所を理解したり、大学や社会との連携を図るプログラム(インターンシップ等)を豊富に組み込んでいる点が特色となっています。

 

2. 本校のキャリア教育への取り組み

 人生について考えた時に、進学、就職、結婚、出産という順番の従来のレールとは、少し違う世の中になってきています。生徒には、ただ単に将来が不安だからいつまでも働くということではなく、充実した生活の中に仕事も取り入れて考える、仕事をしながら充実した生活を送るという観点を持たせるように指導を行っています。
 今、生徒に「人生で一番充実していると思えるのは何歳位だと思いますか?」という質問をすると、多くが「10代後半から20代前半まで」と答えます。平均寿命が90歳に近づく中、18歳の高校生が20代前半で充実している時間が終わるとなれば、残りの70年間は落ち続けていくわけです。生徒には、人生は若い時だけじゃないということはしっかり伝えます。そして、高校1年生、2年生、3年生それぞれの10年後、つまり26歳から28歳までの10年間の目標をどう設定したらいいのか。これから80年間社会で生きていく中で、社会人として活躍するための素養を身につける準備期間であるということを生徒には強く訴えていきます。
 さらに、今や地元の観光地でも、外国人を対象として露店が開かれ、外国人観光客に向けて英語でものを売っている時代です。もはや日本国内でも英語は必要です。世の中が急激に変化してきています。改訂された学習指導要領の方向性の通り、「何をどう学んで、何ができるようになるか」という視点は、本校の指導でも取り入れていかなければならないと痛感しています。

 

3.「社会人基礎力」に欠かせないプレゼンテーション能力の育成

 二階堂高校の進路指導の本質は、先に明示しました通り「ミスマッチを防ぎ、納得した上で進路選択する」ということです。働いてからのこと、進学してからのことを中心に進路を考えるということを1年生の段階から伝えるように努力しています。
 「自己理解」については1年生、「学校理解・仕事理解」については1・2年生、「インターンシップ」については2年生、「オープンスクール」については全学年を対象に行います。2年生の後半には具体的にどういう進路に進みたいのかということについて意思決定してもらいます。そして、3年生の後半には「仕事(進学先)への適応」を取り入れるようにしました。
 指導の最終目標は、「社会人基礎力」の養成ですが、そのために、学力の向上、特に検定や資格の取得については口を酸っぱくして勧めています。そして、全体の指導を通して意識していることは、メモをとる姿勢、話す力と聞く力の双方セットでの能力の向上です。プレゼンテーション能力の向上は、学校での活動に活力を与えるだけではなく、総合型選抜入試や学校推薦型入試、就職試験に役立ち、そして、授業も楽しくなります。「聞いて、考えて、喋る」ことは学力の向上にもつながると考えて重視しています。
 例えば、文化祭での各クラスの出し物についてプレゼンテーションするという場を、全体行事の中で設けました。本校の生徒は今まで、人前でしゃべる時には必ずメモを読み上げていたため、声明文のようになっていました。そこで、メモを見ることは厳禁とし、必ず聞き手の目を見て、口調を変え、そして表情を豊かにしながら、相手に分かって欲しいというつもりで話すよう指導しました。
 1クラス2、3分程度のプレゼンテーションでしたが、見事に全員がメモ無しで行うことができました。聞き手の生徒も、話し手の顔を見て表情豊かに反応していく、そして、その反応を見ながら、話し手もより自分らしい表現ができるというよい流れができ、指導効果が上がりました。

 

4. 2年次「サクセスセミナー」にて『高校生のキャリアノート』を活用

 本校は、分掌としてキャリア教育部を設置しています。進路指導はその中の一部、「進路指導部門」が行い、その「進路指導部門」を担当しているのが進路指導主事になります。
 キャリア教育部は他に、英検等検定対策講座を開講する「学力向上部門」、中学生に対して高校の学びについて案内する「広報部門」、そして、「総合的な探究の時間」における探究的活動を支援する「総合的な探究の時間部門」に分かれています。
 1年生は、総合学科では「産業社会と人間」という必修科目があります。ここでは、全員参加のインターンシップ、キャリアガイダンスを実施しています。
 インターンシップは、本校と提携した地域の介護・医療を含む医療法人において、年に2回行っています(2020年度はコロナのために中止)。幅広い教養を身につけ、働く人の気持ちに触れるということが目的です。
 キャリアガイダンスは、4人の別々の職業の方を集め、一斉にパネルディスカッション形式でガイダンスを行いました。パネルディスカッションでは、とにかくお客様が第一であること、お客様に喜んでいただくことが自分の働き甲斐につながること、そして、会社や上司の方針を十分理解することが大切であるということについて、具体的な話をしていただきました。仕事は違っても、思いは同じということが、1年生に伝わり、生徒たちも話をよく聞いていました。
 次に2年生では「サクセスセミナー」という啓発セミナーを開講しています。これは進学と就職に分かれ、希望者を募り、放課後に行っています。大学のキャリアセンターの講座のようなものです。
 この「サクセスセミナー」の教材として、『高校生のキャリアノート』を主に活用しました。

▼「キャリアノート」の使用計画(令和元年度)

▼〈テーマ3 職業 いろいろ発見〉

 

 上記表のように年間を通じて『キャリアノート』を活用しました。どの段階でどのテーマが役立つかを考えることによって、1年間のセミナーの計画がスムーズに立てられました。総合学科の場合、進路のホームルームで全員に同じ教材を配っても、担任は就職・進学両方についての話をしなければならないため、なかなか活用できません。そこで、進路別にテーマを選べる『キャリアノート』を採択しました。放課後に進路別に生徒を分けて開講したので、効果的に指導を進めることができました。
 また、「総合的な探究の時間」における、課題研究、フィールドワーク、プレゼン指導も『キャリアノート』の中に含まれていましたので、非常に効果的な指導につなげることができたと思っています。
 「サクセスセミナー」では、大学入試をAO推薦で決めた3年生が、後輩の2年生に対し、私はこんな思いで、こんな努力をして、こういうプレゼンテーションをして入試に受かったということを話してくれました。先輩の話を聞いた2年生が、自分も3年生になったら後輩に伝えたいということを申し出てくれましたので、こういう伝統が続いていけばよいと考えています。就職版でも、実際の面接の様子等を生で実演することで、2年生にとっては大変大きな刺激になったようです。
 また、2年生には、放課後や長期休業中に開講する「インターンシップ講座」もあります。1年間35単位をクリアすると1単位が認定されるという仕組みです。このセミナーに参加する生徒は、早い段階から自分に対する進路意識を芽生えさせているので、かなりの数の割合で、ミスマッチを防いだ進路選択ができたと思います。
 色々な業界・団体様にお願いにあがりましたが、一度も断られたことがなかったので、高校生を育てようという、そういう雰囲気は社会の中にあるのだなと感じとることができました。当然、事前・事後・中間指導は十分に行いました。

▼インターンシップの目的とスケジュール

 

 さらに、3学期になっても進路意識が芽生えないという生徒もおりますので、全員参加で「進路別ガイダンス」をホームルームの時間をとって行いました。企業と上級学校に参加いただき、生徒は2回に分かれて自分の聞きたいところのブースに聞きに行くことができます。まだ2年生の段階ですので、いわゆる企業・学校説明ではなくて、社会人として求められるものを中心に話をしていただきたいと、事前に担当の方々にお願いしました。
 何も知らない生徒たちは、どのブースへ行っても礼儀、挨拶、基本的生活習慣、そして勉強が大切だという話を聞かされるという体験をしました。その後、担任の先生がホームルームにおいて我々が日ごろから言っていること、そしてあなたたちがやろうとしていることは間違いではないんだよということを実感してもらうことができました。

▼2年次での進路別ガイダンス

 

 そして、3年生には内定者・合格者への適応研修を行います。以前、3月の研修の段階で来なくなったという連絡があるなど、本校の早期離職率は高かったため、対策として編み出したのが、「内定者研修」です。内定をもらった高校3年生に対して、10月から2月に至るまで、月1回、約半年間にわたって「内定者研修」を続けました。マナー研修であったり、着こなしの研修であったり、労働法規に関する研修であったり、実際の企業の方々に協力をお願いしました。また、社会人の生の声として、先輩の話を聞く機会を設け、高卒就職の実態等についても研修いたしました。
 一方大学入試について、年内に合格した生徒に対しては、大学の学びにスムーズに溶け込めるように、「入学前教育」を実施いたしました。主に指定校推薦で大学に進学するものについては必須としています。AO入試で通った生徒も参加します。ここでは、大学のゼミのように研究活動を行いました。

▼就職内定者の研修と大学入学前教育

 

 平成29年度に行ったのは、地域の観光マップ作りです。学校のすぐそばにオープンしたホテルがあり、このホテルにお客様用に置いていただく地域の観光マップを作りました。立派なものを作ろうということでデザイナーを呼び、デザイナーとの名刺交換から、社会人としてのマナーも学びました。地域のマップですので、歴史も紐解かなくてはいけないだろうということで、図書館に行き、さまざまな本を調べあげました。
 日本語のマップを作ったわけですが、「これから大学に行くんやから英語も作ったらどうだ」ということで英語版のマップも作りました。辞書をひき、いろいろな人に助けられながら、作りあげました。

▼地域の観光マップ作り

 

 平成30年度には、SDGsを取り入れた「エ~コとフェスタ」ということで、市役所・事業所・団体を巻き込んだイベントのマネジメントを行いました。
 イベントには飲食店が出店しますので、少なくともプラスチックごみは出さないということで、ラーメンをどうやって販売するのか、ラーメン屋さんとも打ち合わせを行い、非常によい経験ができたと思います。当日、会場となった駅前広場におきまして、天理市長とも対談をいたしまして、彼らにとってよい学びの場になったと考えられます。

▼二階堂高校と天理市共催の「エ~コとフェスタ」イベント

 

5. まとめ

 最後に、本校における進路指導・キャリア教育の成果と課題です。
 普通科時代、また、このような取り組みをする前は、進路が決まった生徒に気の緩みが見られました。しかしながら、このような取り組みを進めることで、就職する生徒には、社会人として自分を成長させようという心構えが見られるようになりました。また、大学に進学する生徒も、向学心を持って授業に取り組む姿勢が見られるようになりました。
 生徒の感想には、非常によい経験ができたと喜んでいる内容が、多くみられました。
 進路の決定状況も、今までなかなか進めなかったような企業や大学への進路が少しずつ増えてきました。キャリア指導に取り組んできた成果が評価されたものと考えます。
 そして、最後に卒業生の動向です。大学へ進学した生徒たちが、大学の成績表を持って学校を訪ねてくることが度々ありました。非常によい成績を収めていたから見せたかったのだと思いますが、スムーズに上級学校に溶け込めているんだなと感激しました。
 また、今まで指定校推薦においても、早期に退学している生徒が10~20%近くいたのですが、この3年間、生徒の早期退学というのはほぼ見られなくなってきました。
 就職についても同様です。以前は研修の段階や、入社早々に来られなくなったという連絡が入ることがあったのですが、今では全く無くなりました。多くの卒業生たちが離職を思いとどまって、頑張って働き続けている、または、学校に相談に来られるような環境ができたのではないかなと思っています。
 以上で発表を終わらせていただきます。本日は発表の機会をいただき、ありがとうございました。

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