『高校生のキャリアノート』を活用した
進路学習の取組みについて

1. 本校の概要

 本校は、昭和4年に設立され、2018年に創立90周年を迎えた歴史ある伝統校です。札幌市の北東部に隣接する江別市に位置し、札幌市は就職・進学圏内になります。普通科が5クラス200人、事務情報科が2クラス80人、生活デザイン科が1クラス40人の、3学科から成り、1学年の定員が320名の道内でも有数の大規模校です。
 本校の進路状況は、進学8割、就職2割と進学者の割合が大きいです。内訳は、専門学校が41%と最も多く、大学36%、短大8%、看護・医療2%、公務員就職3%、民間就職10%と多様で幅広いですが、これは学力中間層の生徒が多いことと、専門学科があるためだと考えられます。

 

2. 進路指導の目標と課題

 生徒の特徴については、良い面をいえば「あいさつができる」「素直」「まじめ」「文句を言わない」ですが、逆にいえば「争わない」「あきらめる」「受け身・消極的」であり、部活動の場面などでは、「ここ一番に弱い」という特徴が見受けられます。安定志向で競争を嫌う傾向が強く、良くも悪くも、「無難」という言葉が当てはまります。
 「意欲をもって自主的に取り組む」という点に課題を感じている教員は多く、本校の教育目標にも重点項目として、「一歩踏み出す行動力の育成を図る」が1番に掲げられています。目指す生徒像は“Take a step forward”ということで、生徒自らが進路実現に向けて目標設定をし、地道に努力し続ける力を育む進路指導が求められています。
 以上のことから、本校の進路指導の使命として、多様で幅広い進路希望への対応と、前へ踏み出す行動力を付けさせること、その2点が挙げられます。
 進路指導の目標は、生徒の発達段階に応じて学年別に3つのステップで構成され、目標達成のための様々な取り組みを系統的に行っています。1年次は「自分・社会・学びを知る」というテーマで、広く他者や社会と交流し、学問や職業を知り、自分自身の価値や可能性を発見して、興味・関心の幅を拡大することを目指します。2年次は「進路を設計する」というテーマで、自分の興味・関心に基づき、進路先についてさらに深く調べるという活動が中心になります。3年次は「進路を決定する」というテーマで、将来を見据えての進路決定と、実現に向けて行動する力を育むことを目指しています。

▼3年間の流れ(進路シラバス)

 3年間を通した本校の進路指導の理想形は、「生徒自らが自分の将来について積極的に考える」「安易な選択ではなく、人生を豊かにするという視点で進路を決定する」ことで、生徒一人ひとりの人生実現を目指すものだと考えています。
 1年次では特に、「自己発見-自分・社会・学びを知る」という目標の達成を目指し活動しています。しかし、外部講師を招いての3回のガイダンス、約6か月に及ぶ進学講習、3回の保護者説明会、計6回の模擬試験等学力テストなど、それぞれの準備も含めて、教員も生徒もこなすのが精いっぱいというのが現状です。進路行事の多さから単なる体験に終わってしまい、一つひとつの行事が線としてつながっているはずなのに、そのつながりやステップアップを生徒自身が感じにくいというものがあり、進路指導の課題となっていました。

▼1年次における進路活動

 

3. 2020年度コロナ禍における進路活動と『キャリアノート』の位置づけの変化

 2020年度の進路活動ですが、コロナ禍により、予定がすべて崩れました。これは全国どこも同じだったと思いますが、本校においても入学3日後の4月11日から5月31日まで長い臨時休校に入りました。その後、2週間の分散登校を経て、学校がようやく再開しました。
 宿泊研修、学校祭など密を伴う全校集会・学校行事はすべて中止となり、進路行事も中止・延期・縮小等を余儀なくされ、その対応に追われました。1年次に限ってみてみると、4月に予定されていた「宿泊研修」が中止となり、付随する進路学習もすべて中止となりました。7月から12月の行事に関しては、3つのガイダンスは時期や内容を変更しながらかろうじて実施することができましたが、生徒の人間関係の育成に大きく影響を及ぼす学校行事類は、すべて中止となりました。年度末の3月に予定されていた「進路学習成果発表会」も中止となり、他学年との交流を通して進路行事のまとめを行うという活動ができませんでした。
 『高校生のキャリアノート』活用の当初の狙いは、過密な進路行事や、生徒の多様な進路希望に応えるための指導に追われている現実と、進路目標に掲げた理想とのギャップを改善できないかというものでした。言うならば年間計画に組み込んで、進路活動の補てんとしての『キャリアノート』という位置づけでしたが、突然のコロナ禍によって変化が生じました。
 様々な行事が中止に追い込まれる中、行事自体の活動の意味を見直して、コロナ制限下でも身につけさせたい能力は何か、それをどうやって実現するかを考え、目標達成のためのツールとして『キャリアノート』の活用を位置づけることになりました。

 

4.『キャリアノート』を活用した実践報告

◎6月1日 〈テーマ2 高校生活レッツスタート〉
 『キャリアノート』を活用して新たに実践したことや、『キャリアノート』の効果と可能性の検証についてお話をさせていただきます。対象は、1学年320名です。
 最初の活動として6月1日の休校明けに、高校生活への切り替えと教育相談での活用を目的に、〈高校生活レッツスタート〉を実施しました。活動の時間がとれないため、家庭で取り組めるように内容を精選し、朝のホームルームで担任より配布・課題の指示を行いました。生徒の取り組みは良好で、提出率はほぼ100%でした。これは、先行きの見えない世の中への不安と、これから始まる高校生活への期待の高さであると感じました。
 併せて、休校期間中の生徒の状況を把握するために、「進路アンケート」を配布しました。特に、将来を尋ねた質問に対して、「医療にたずさわる仕事に就いて人を助けたいと思った」「医療系は少し大変なので、目指していたけれど、ちょっと自信がない」という生徒もおり、当時テレビで、医療系スタッフについて頻繁に取り上げられていたことを、敏感に感じている生徒の姿がありました。高校生の視点で世の中をとらえ、自らの将来を考えていることがわかりました。
 「進路アンケート」と〈高校生活レッツスタート〉の内容は、進路相談での有効な資料として活用でき、目的を達成できたと考えています。

▼進路アンケート

◎6月26日 〈テーマ20 コミュニケーションスキルズ〉 & 〈テーマ21 高校生活いきいき術〉
 続いて、分散登校が明けて約1週間後の6月26日の5・6校時に、対話能力の向上、人間関係の形成能力の育成を目指した「コミュニケーショントレーニング」という活動に『キャリアノート』を利用しました。担任との面談がほぼ終了し、いよいよこれから仲間づくり、友達づくりを本格的に始めていくという時期に、コミュニケーションのとり方と集団生活への適応について学べるよう、〈コミュニケーションスキルズ〉〈高校生活いきいき術〉の内容を取り入れました。
 まず、コミュニケーションとは何か、なぜ必要なのか、『キャリアノート』内のワークに取り組ませながら担任が説明を行いました。その後は、コロナ禍によりグループワークができなかったため、ソーシャルディスタンスと感染予防に努めながら、ペアワークやロールプレイを通して、話し方、聴き方、態度による感じ方の違いを実体験させました。
 ロールプレイでお互いが両方の立場を経験することにより、自分が普段無意識にしてしまっている行動に気づき、直していきたいとする感想が多く聞かれました。ペアワーク、代表生徒の実演、意見発表に対する消極性はほとんどなく、相手の行動に対する寛容さ、他者を受け入れる雰囲気が感じられて、生徒の交流を促す活動として非常に有効でした。これは、まだお互いによく知らない存在であったことが、垣根のない交流や気遣いにつながったと思われます。4月に行うはずであった「宿泊研修」の人間関係育成プログラムでの利用も可能だと思いました。
 教員側からは、「生徒の新たな一面に気づき、生徒理解にも役立った」という声が聞かれました。

◎3月10日 〈テーマ9 レッツスタート高校2年生〉
 年度末のまとめの時期に、「1年間の振り返り」と「2年生での目標設定」をテーマに、「先輩からのアドバイス」という進路行事と〈レッツスタート高校2年生〉を組み合わせて実施しました。
 まず朝のホームルームの時間に担任が、〈レッツスタート高校2年生〉を用いて「1年間の振り返り」を行いました。その後、卒業したばかりの進路先が異なる5人の先輩たちの実体験やアドバイスを聞いて、これから始まる高校2年生での活動を考えるきっかけとしました。
 〈レッツスタート高校2年生〉の中に、「先輩からのアドバイス」というページがあったので、それを参考にアドバイスの内容や感じたことを書き込めるようにアレンジした感想用紙を作成しました。
 「先輩からのアドバイス」では、失敗談や後悔など高校1年生でやっておけばよかったことを中心に、進路決定の動機や将来の展望についても語られました。そのため、生徒たちは自分に置き換えて考えることができ、将来を見据えた進路選択が必要であるというキャリアの視点をもつことができました。教室に戻ってから、アドバイスの振り返りと、どのようなところに共感したかについて交流を持つ場面を作り、2年生への展望と目標設定へとつなげました。
 1年生を振り返り、先輩からのアドバイスを聞いて、2年生での目標を立てるという『キャリアノート』の構成に沿って実施できた部分もありました。その一方で、事前と事後の活動時間が十分ではなかったため、つながりを意識できていない生徒も見受けられました。
 課題として、事前指導の重要さとキャリア教育の視点に立った進路指導の継続性の大切さを感じました。
 生徒の感想は以下の通りです。

・なぜその進路を選んだのか、きっかけの部分も知れてよかった。

・うまくいったことだけでなく失敗談や大変だったことも聞けて参考になった。

・時間の重要さを再認識した。この先どうしようかと進路を具体的に考えるきっかけとなった。

◎3月18日 〈テーマ19 自己PRスキルズ〉~「面接練習」と提携
 コロナ禍で、生徒は成果発表の場を失っていたので、1年次進路目標である「自己発見」のまとめとして、また、2年次進路目標である「自己啓発」へのステップとして新規授業に挑戦しました。
 1年生はコロナの影響で、高校入試の面接試験が中止となっていたため、「面接練習」は非常に有効だと考えていたので、面接につながる「自己PR」と組み合わせて、3月18日の3・4校時に実施しました。「自己PR」については、『キャリアノート』〈自己PRスキルズ〉を活用しました。
 「自己PR」は3年生でも作成が難しいので、初めて取り組む1年生にとってハードルが高いと予想されました。しかし、〈自己PRスキルズ〉は手順に従って簡単な設問やワークに取り組むことで学べるような構成になっていたので、苦戦しながらも、一生懸命取り組んでいる様子が見られました。短所を長所に言い換えることや、エピソードが重要であるということが書かれていたので、そういう手法を学べたことや、自らを掘り下げて自己分析し、長所を見つけ出すという一連の作業を体験できたことは大きな成果であったと思います。
 課題としては、時間不足のため書けない生徒への対応が十分にできなかったこと、書ける生徒に対しても完成まで導けなかったことがあげられます。
 生徒の感想は以下の通りです。

・今まで自分を深く考えたことがなかったので、それを考えるよい機会となった。

・自己PRに苦手意識があったが、書く機会があってためになった。

・ノートを使って自分の長所やエピソード、感じたことや成長したことなどを、手順を追って考えられたので自己PR文が書きやすかった。

 中には、「難しかった」「混乱した」というマイナスに捉えられる意見もありましたが、自分自身に真剣に向き合い自己表現しようとしたからこそ生じている感情だととらえれば、十分意味のある活動だったと思います。

 「面接練習」は、クラスを2つに分けて教員が監督者、生徒全員が面接官役、評価者役、受験者役を体験するロールプレイ方式で行いました。
 まず、先生による面接の大切さの説明と礼法の指導を行って、その後10人1グループで礼法の練習をし、最後に実践をするという流れで進めました。質問は一つに絞り、礼・返事・入退室の礼法指導に特化して、練習する時間も確保しました。そのため、未経験者や苦手意識のある生徒たちも他者との交流を楽しんでいる様子が見られ、次年度につながる活動となりました。
 面接者だけでなく評価者の視点も体験することで、評価されるポイントを認識して自分を客観視することができ、相手を尊重することも学べました。
 生徒の感想は以下の通りです。

・面接官側を体験することができたのがよかった。人を見ることで勉強にもなった。

・どこを見られているか、どこに気をつけるべきか、今日の練習でそれぞれわかった。

・礼法や受け答えは面接だけでなくいろいろな場面で役立つからもっと練習したい。

 

5. 1年次での活動の評価アンケート

 1年次の進路活動のまとめとして教員・生徒の両方に、それぞれの活動についての「評価アンケート」を5段階評価で実施しました。
 「先輩からのアドバイス」と「面接試験」の評価が高かったですが、面接に関しては教員評価が若干低くなりました。これは「時間が足りなかった」「もっとしっかり丁寧に教えたかった」という教員自身の熱意の現れだと感じています。
 「自己PR」の評価は、生徒の3.86に対して、教員は4.57と、生徒と教員のギャップが最も大きくなりました。教師にとっては必要性が高く身につけてほしい力である一方、生徒にとっては難しいと感じて敬遠している項目だと分析できました。このあたりは、『キャリアノート』を上手に活用することで改善できると感じています。
 「コミュニケーショントレーニング」が3.69と低い理由には、「何をやったか覚えていない」という生徒が相当数見受けられました。これは、アンケートの実施時期(活動からの経過時間)も大きく影響していると感じています。

▼評価アンケートの結果

 

6.『キャリアノート』まとめ

 新型コロナウィルスの感染拡大によって見通しが立たず、手探り状態の中で、学年と進路指導部が協力して、教育効果を上げるために知恵を絞りました。
 4月の「宿泊研修」の中止を受け、前半は他者交流、人間関係、集団生活、進路意識をテーマに2つ、3月のまとめの段階では「進路成果発表会」の中止を受け、意見交流、1年の振り返り、次年度への心構えというテーマで2つの活動を行いました。
 1年次の「自分・社会・学びを知る」という進路目標が求めるものと『キャリアノート』のテーマがマッチしたため、高い効果が得られたと思います。〈高校生活レッツスタート〉は家庭学習として、「コミュニケーショントレーニング」では〈コミュニケーションスキルズ〉〈高校生活いきいき術〉を融合させて、「先輩からのアドバイス」では〈レッツスタート高校2年生〉の内容を盛り込み、〈自己PRスキルズ〉はクラスを半分にわけて実施した「面接練習」の抱き合わせという形で利用しました。
 様々なテーマに対応できるようにたくさんのパターンが用意されていたため、必要な場面を切り取りやすく、本校の事例のように既存行事と結びつけても、単独で実施しても、休校中の家庭学習としても十分に活用できたので、汎用性が高いと感じています。生徒にとってはステップを踏みながら無理なく学べるので、非常に取り組みやすいという印象を受けました。
 また、本校のような大規模校で8クラスの教員が足並みを揃えて実施するために、『キャリアノート』のマニュアルがとても役に立ち、目標達成のツールとして非常に有効でした。
 ただし、活動を通して身につけさせたい力と目標を明確にしなければ、単なる作業に終わってしまい、生徒によってはつまらない、やらされているという印象をもってしまう可能性があります。今回も時間が足りず、事前指導やワーク作業時間の不足によって中途半端に終わってしまう部分も見られたので、状況に応じて活用方法や活用時間を変化させなければ最大の効果が発揮されないと、反省とともに実感しました。
 コロナ禍において試行錯誤しながら、新たな取組みに挑戦したことで、時代や生徒に合わせて教員自身も変化していかなければならないと、痛感しました。次年度以降の状況がどうなるのかわかりませんが、一つひとつの行事の意味とつながりを意識して、点を線につなげるツールとして『キャリアノート』を活用し、目指す生徒像の育成に向けて前進したいと思います。

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