キャリアノートを活用した本校の取り組みについて

■ 本校の特色

 本校は、大正2年に青森市立工業徒弟学校からスタートし、平成23年に創立100周年を迎えた伝統のある工業高校です。100周年を節目に、陸奥湾を一望できる地に移転し、新たに都市環境科を設置しました。現在、全日制7学科(他に機械科、電子機械科、電気科、電子科、情報技術科、建築科)、定時制1学科(工業技術科)で構成されています。部活動は運動部、文化部とも盛んですが、わが校ならではの部に、"ねぶた研究部"があります。大きい"ねぶた"を、生徒だけで作っているのですが、中には地元の団体にスカウトされて、"ねぶた"作りを手伝うといった生徒もいます。

 

■ 本校のキャリア教育

 経済が右肩上がりの高度成長期は、大量生産・大量消費が求められる社会でした。21世紀に入り、市場が成熟すると、よりよい物を少ないコストで作ることが命題にかわり、働く人に対しても、課題の発見力・創造力・多様性という素養が求められるようになりました。さらに、経済のグローバル化や少子高齢化が進むにつれ、社会環境はもちろん労働環境・雇用形態も大きく変化しています。
 一方で、子どもたちの精神的・社会的自立については、遅れがみられるという指摘がありました。本校においても、将来に対する自分自身の生き方を見いだせない生徒は少なくないと感じていました。ここ数年、景気回復の影響で、企業からの求人数は、県内外問わず倍増傾向にあります。生徒にとってはありがたい反面、自分に合った職種・会社選択に悩む場面が多く見られるようになりました。
 そのような状況下で、本校におけるキャリア教育の取り組みは、大きく以下の4つの項目に分かれていました。

 

①講話型学習(進路ガイダンス、県内企業説明会、先輩の講話、受験報告会)

②体験型学習(インターンシップ、企業見学)

③キャリア型学習(資格取得講習会、高大連携セミナー、就職対策講座、模擬面接会)

④地域体験型学習(青森ねぶた祭り、町内子供会活動、課題研究、近隣小学生との交流)

 それぞれの取り組みは、熱心に展開するものの、生徒にどれくらい身になったか効果がわからず、一過性に終わってしまうといった反省がありました。そこで『高校生のキャリアノート』を、それぞれの学習の事前・事後指導のために導入しました。事前に目標を設定し、この学習を通して何を身に付けてほしいのかを明確にすることで学習効果をあげ、最終的に、自分の生き方に結び付いた職種・会社選択を実現させることを目的としました。

 

■ 『キャリアノート』の取り組みについて

 『キャリアノート』は、平成27年度の2学年・240名が活用しました。以下に、実施したテーマの中から、4テーマについて、事前に設定した「学習目標」と担任向けの「指導案」を紹介します。

①『キャリアノート』《テーマ10.あなたの個性と適性》…平成27年5月26日(火)

目標:「自分自身の性格や特性を正確に理解できるようになろう」(自己理解・自己管理能力の養成)

展開場面:進路講話の時間に続けて展開

生徒の行動 先生の行動
導入(3分) 本時の学習のねらいを確認する 自分の特徴と職業のもつ特徴の関係について考えてもらうことを確認させる
展開 (10分) 例に挙げられている生徒のデータを分析し、職業の特性と例に挙げられている生徒の個性を比較し、職業の適性の有無を判断する 個性と職業が必要とする条件が適合するかどうかを考えることの重要性を説明し、例に挙げられている生徒の適性を判断させる
(35分) 自分自身のデータをまとめ、希望する職業と自分自身のデータを比較し、希望する職業への適性度を高めるための今後の努力すべきことを考える 自分自身の適性を考えさせるために企業の資料等を配布し、企業について簡単に説明し、職業との適性を実際に考えさせる
まとめ(2分) 活動を振り返り、自己理解と適性理解の重要性を確認し、キャリアノートをまとめ、提出する 活動を復習し、自己理解と適性理解を深める方法を理解できたか確認し、進路に関心をもたせる

『キャリアノート』《テーマ10.あなたの個性と適性》

テーマ10表紙
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②『キャリアノート』《テーマ11.企業とその仕事を知る…平成27年7月14日(火)

目標:「インターンシップでお世話になる企業の特徴を具体的に知ることで、勤労観や職業観を養う」
(勤労観・職業観等の価値観の養成)

展開場面:インターンシップの実施前に展開

生徒の行動 先生の行動
導入(3分) 本時の学習のねらいを確認する インターンシップでお世話になる企業を取り上げて、企業の種類やしくみについて学ぶことを確認させる
展開 (25分) 企業のホームページや会社案内等の情報誌を参考にして、必要な情報を整理し、イメージする 企業の情報を整理させ、全体像を掴ませるとともに、多面的に見ることが出来るように理解させる
(10分) 企業の特徴を理解するために、図と表を見比べ、おおまかな分類と種類を知り、理解を深める 企業形態や種類について、会社を例示しイメージを膨らませ、どの職種に興味があるか考えさせる
(10分) 例にある企業の組織図を通して、部門・部署の構成やそれぞれの具体的な仕事内容を学び理解する 企業の組織について考えさせ、縦と横の関係や事業内容について解説し、理解を深めさせる
まとめ(2分) 活動を振り返り、企業の成りたちや種類、しくみなどを確認し、キャリアノートをまとめ、提出する 活動を復習し、企業全体の理解を深めることで、将来の仕事を考える上で役立つことが理解できたか確認させる

『キャリアノート』《テーマ11.企業とその仕事を知る》

テーマ10表紙
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③『キャリアノート』《テーマ12.職場リアル体験》…平成28年1月19日(火)

目標:「実際に職業体験をすることで、職業理解に役立て、進路選択への課題等を明確にする」
(人間関係形成・職業観等の価値観の養成)

展開場面:インターンシップの実施後に展開

生徒の行動 先生の行動
導入(3分) 本時の学習のねらいを確認する 実際に体験を通して職業理解を深め、職業選択につながることについて考えてもらうことを確認させる
展開 (35分) インターシップを通して、職業理解に役立ったポイントを確認し整理する。また、今後の進路を選択するときの課題を明確にする 要点をうまくまとめ、みんなが理解しやすいような整理が出来るように例を挙げて説明し、目的や働き方等を明確にさせる
(10分) まとめあげたデータを、希望する職業と比較し、クラスで情報を共有し合い、希望する職業への適性度を高めるための今後の努力すべきことを考える 自分自身の適性を考えさせるために、より多くの企業の情報を共有することが有意義であること、また進路選択に必要な情報収集を通して、職業との適性を実際に考えさせる
まとめ(2分) 活動を振り返り、インターンシップの重要性を確認し、キャリアノートをまとめ、提出する 活動を復習し、職場体験を通して、働く目的を明確にすることが重要であることを理解できたか確認させる

『キャリアノート』《テーマ12.職場 リアル体験》

テーマ12表紙
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④『キャリアノート』《テーマ17.仕事選びのステップ》…平成28年2月16日(火)

目標:「自分自身の能力や特性等の個性を生かせる職業を選択し、進路実現に向けて計画を作成する」
(キャリアプランニング能力)

展開場面:3年進級前に展開

生徒の行動 先生の行動
導入(3分) 本時の学習のねらいを確認する 仕事を選択するための手順を説明し、理解させる
展開 (25分) 自己を分析し、希望する職業を考え、仕事をする上で、得たいこと、重視することを考えてみる 仕事を選ぶ上で様々な理由を考え、仕事選びの視点を明確にすることを理解させる
(10分) 実際の求人票から、内容をチェックし自分が評価する項目を確認して整理してみる 求人票に記載されている情報を正しく理解させ、求人票を見るときのポイントを確認させる
(10分) 進路実現に向けて、どのようなスケジュールになるか、報告書等を用いて実際に計画をたててみる 進路実現に向けて、計画的に高校生活を送るための手順を説明し、確認させ実際に計画させる
まとめ(2分) 活動を振り返り、職場体験の目的や事前学習の重要性を理解できたか確認し、キャリアノートをまとめ、提出する 活動を復習し、求人票の見方や、進路実現に向けて計画することが重要であることを理解できたか確認させる

『キャリアノート』《テーマ17.仕事選びのステップ》

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 このように、担任の先生が困らないように、簡単な指導案とその他付属のプリントを進路指導部で作成し、事前に配布しておきました。また、指導の効果をはかるために、各テーマの授業終了後に、生徒に対して必ずアンケートを行いました。アンケートは、各質問項目を5点満点で評価させ、授業後に生徒がどれくらい意識を向上したか、能力をつけたかということを、点数化して検証しました。


<《テーマ10 あなたの個性と適性》 授業後のアンケート集計(一部)>

○キャリアノートをやってみて、進路希望について以前より真剣に考えようと思うようになりましたか。

学 科 ①(人) ②(人) ③(人) ④(人) 平均
機 械 科 9 22 3 0 4.1
電子機械科 9 20 6 0 4.0
電 気 科 14 17 1 0 4.4
電 子 科 6 10 18 1 3.1
情報技術科 7 14 14 0 3.4
建 築 科 9 16 8 1 3.7
都市環境科 17 15 2 0 4.4

① 考えるようになった……5点  ② 少しはなった……4点  ③ 変わらない……2点  ④ 思わない……1点

 評価の平均が、4以上になることを目標としました。4より低かった場合は、まだ生徒が真剣に自分自身に向き合えていないのかなとか、担任の指導ができていなかったかなとか、反省材料とし、次の授業に活かすようにしました。そして、すべての授業が終わってから、生徒の評価の推移をグラフ化してみますと、生徒の意識がだんだん高くなってきたのがわかります(下表)。


<すべての授業後のアンケート集計のグラフ化(一部)>

○キャリアノートをやってみて、進路希望について以前より真剣に考えようと思うようになりましたか。

まとめ

 今回、ホームルーム活動の時間を利用し、担任の先生方に初めて『キャリアノート』を活用した指導をお願いしました。その際に、進路指導部では、担任一人一人の授業内容にばらつきがでないように、テーマごとに目標設定を明確にし、具体化した指導方法を示すなど、効果的な活動を心がけました。さらに、授業後にアンケートを実施し、事後評価することで、到達度が視覚的に明確化され、今後につながるより充実したキャリア教育が継続できたと考えます。
 最後に、2年生で『キャリアノート』を活用した生徒に、3年生の進路決定時に、再度自分の記入した『キャリアノート』を見せて、振り返ってもらいました。すると、生徒の中からは、「2年次に『キャリアノート』で今後の道筋を大まかに予定しておくことによって、3年次に冷静に進学の準備をすることができました」など、指導側としては大変うれしい感想が出てきました。

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