商業高校における『キャリアノート』を用いたキャリア教育
兵庫県立神戸商業高等学校

神戸商業高等学校校舎

 兵庫県立神戸商業高等学校は、神戸市の小高い丘の上に建ち、校舎からは明石海峡大橋が臨める素晴らしい学習環境にある。創設には福沢諭吉が加わり、貿易都市神戸港の発展を担う人材育成を目指して開校した同校は、平成24年度に創立135周年を迎え、日本で最古の歴史を誇る。卒業生は約3万人を超え、産業界はもとより、官界、政界あらゆる分野で活躍しており、歴史と伝統を大切にしながら絶えず進化を続けている。

 

本校の特色

小島潤二教諭

 本校は、商業科5クラス、会計科と情報科がそれぞれ1クラスの計7クラスで学習を行っています。商業科では、1年次に、普通科目、商業科目ともに基礎・基本の学習を行い、2年次から興味・関心や進路目標に応じて、「進学コース」と「経営コース」 に分かれ授業を進めていきます。幅広い商業科目の中から、「コース」・「系」に応じた科目を選択し学習を深めます。
 会計科は、兵庫県内の高校の中で唯一簿記や会計を専門的に学習できる特別学科です。専門学校との連携による高度な簿記・会計の学習だけではなく、コンピュータの知識・技能も身につけることができます。また、簿記コンクールや簿記選手権などの各種競技会で、全国大会に出場することを目標にしています。
 情報科は、情報処理に関する専門的・総合的な学習を通して、将来システムエンジニアやIT関連の企業で、リーダとして活躍できる知識と技術を身につけます。在学中に、経済産業省情報処理技術者試験に合格できる実力を養成し、全国情報処理競技大会や全国IT選手権大会への出場を目指しています。
 また、本校の特色ある取り組みとしては、夏休み期間中に「Shop KENSHO 県商生活」という実習店舗を、垂水駅前廉売市場等で開店させる商店経営実習です。この実習は、売上高が年々上昇し、夏の恒例イベントとなっています。さらに、兵庫県内の地元産品にこだわった「垂水ぺったん焼き」、「神戸の潮風」、「ほの香茶漬け」など、さまざまな商品を開発しています。その他、身だしなみ、挨拶、面接での自己紹介、基本の立ち姿、立礼三種、かけ姿、椅子の立ち方・座り方、電話でのマナー、言葉遣い、敬語の種類・使い方、書類の受け渡し方などのビジネスマナー習得にも力を入れています。

 

136回生のキャリア教育の取り組み

 本校は、7割が進学、3割が就職という進路状況です。最近では進学者の中で国公立や専門学校を、就職者の中には製造や事務を希望するなど、進路が多様化しており、きめ細かな進路指導が必要となってきています。
 そこで、1年生に対しては、協同作業やオリエンテーションなどの集団生活を通じた規律を身につける目的で4月に野外活動を、進学就職に対する知識や進路実現に向けた意識付けとして進路・就職指導部からの進路講話を5月と11月に実施しています。また、他学年においても、大学生を囲む会、インターンシップ、卒業生を囲む座談会、県商生活、応募前職場見学、ボランティア、地域の方々との活動、挨拶励行、文字の書き方、服装、備品の扱い方、スケジュールの管理など日常生活に密接した事柄、など、さまざまなキャリア教育の取り組みを実行しています。一方で、基礎学力の充実、専門高校としてのキャリア教育のあり方、キャリア教育体制、キャリア教育の本義と生徒の未来のための教育など、まだ多くの課題があります。

 

『キャリアノート』の活用

●1年次

 本校の商業科は、2年次に、進路希望などをもとに進学コースと経営コースに分かれます。毎年、適切な進路選択を行うために、生徒と保護者に対して、1年次の10月にコース分けの説明会を開催しますが、例年、この時期になると悩む生徒が多く出てきます。そこで、説明会の事前学習として、LHRの時間に『キャリアノート 』《テーマ10. あなたの個性と適性》を取り入れることにしました。
 授業後は、生徒から「進路の事を考え出す良いきっかけになった」、「私もさゆりさんと一緒で、保育士になりたいと考えているので、参考になった」、「進学、就職で悩んでいるので、将来のことについて考えられて良かった」などの感想を聞くことができました。『キャリアノート 』《テーマ10. あなたの個性と適性》を活用した今年は、比較的悩む生徒が少なく、進路について意識して行動できていたので、スムーズにコース選択を行うことができました。

《テーマ10.あなたの個性と適性》

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 その後、12月に分野別・大学別進路説明会を行います。就職希望者には企業の方に説明をしていただきました。進学希望者には、進学に対する知識を深めると同時に意識を高めるための講話に加え、国公立・私立の4年制大学・短期大学、専門学校の希望ごとに細かく分かれ、詳しい話を聞く場を設けています。
 入学して一年も過ぎると、生徒の進路意識に個人差が出てきます。進路が明確になってきている生徒、明確になっていない生徒、経済的な点で心配な生徒など、生徒の状況に合わせて、個別に選べるガイダンスを行ったことは大変効果があったと感じています。
一年を振り返り、ガイダンスの時期を早めるかどうかや、コース選択をもう少し時期を遅くすること、などの課題があがりました。また、コース選択前に『キャリアノート』を活用したことで、進路学習の重要性を再認識させられました。

 

●2年次

 2学次に進学コース・就職コースに分かれます。商業科は5クラスのうち2クラスが進学クラスになります。コース変更を希望する生徒もいるため、状況把握のために、また、進路への意識付けのため、簡単なアンケートと、『キャリアノート』《テーマ9. レッツスタート高校2年生》をLHRの時間に活用しました。

《テーマ9.レッツスタート高校2年生》

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 高校1年生の時に何をしていたのか、どれだけ成長したのか、ということの振り返りや、これからどのように高校生活を送っていけばよいのかがわかる先輩からのアドバイス、などのワークを学習しました。

《テーマ9.レッツスタート高校2年生》

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どのような取り組みをしていくのかを詳しく記入させました。 本校は商業高校のため、資格取得を中心に計画しました。

 

 『キャリアノート』を活用後に生徒へアンケートを行ったところ、「役に立った」「どちらかというと役に立った」には、86%の回答がありました。2年次は進路について本格的に考える時期であるため、早い時期のLHRで『キャリアノート』《テーマ9. レッツスタート高校2年生》を取り入れることにより、生徒の実態を把握することができました。また、『キャリアノート』《9. レッツスタート高校2年生》の8ページにある「進路相談を活用しよう」では、生徒が具体的な進路の悩みについて記入していたため、教員側としても会話のきっかけとなり、生徒と進路のことについて話す機会が増えました。生徒からも「進路に対する悩みを先生に相談することができてよかった」との感想がありました。
 7月に入ると、大学・短大・専門学校への見学会を行います。見学会に参加すると、「もっと進路について真剣に考えようと思った」「しっかり自分と向き合い、自分の目標が達成できるようにしたいです」という感想が聞かれ、生徒の意識に変化がみられるようになりました。そして夏休みに入ってからは、希望者にオープンキャンパス・インターンシップを行っています。その際に、『キャリアノート』《テーマ7. 進学 リアル体験》を学習しました。事前学習をすることによって、質問したいことを整理できたり、大学生にインタビューする際に具体的なことが聞くことができたりなど、余裕を持って行動できる、充実したオープンキャンパスとなりました。

《テーマ7.進学リアル体験》

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 11月には、キャリア教育を目的として東京への修学旅行を行っています。テーブルマナー研修や、ディズニーランド運営企業からの講演、生徒の希望した企業への訪問、早稲田の商店街で「Shop KENSHO 県商生活」の販売実習を組み入れました。全体を通して、研修をメインに計画しましたが、生徒はおおむね満足していたようです。このとき『キャリアノート』《テーマ11. 企業とその仕事を知る》と『キャリアノート』《テーマ12.職場 リアル体験》を事前学習として活用しました。

《テーマ11.企業とその仕事を知る》

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《テーマ12.職場リアル体験》

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 学年末の2月には、「3年生を囲む会」を行いました。3年次に何をしておけばよいかという先輩の話に、生徒たちは真剣に耳を傾けていました。その後、就職指導・進路面談を実施しています。このとき、進学する理由をまとめたり、進学先の学部学科について調べたりするために、『キャリアノート』《テーマ14.進学先をリサーチしよう》を活用し、学校の種類、情報収集の方法、などを学習させました。中には、志望がかたまり、情報収集を進めている生徒もいたため、活用する時期が課題として残りました。

《テーマ14.進学先をリサーチしよう》

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『キャリアノート』で思い描いた未来へ!

 『キャリアノート』の活用という点での反省としては、①取り組み始める時期が遅かったこと、②計画的に『キャリアノート』を活用できなかったこと、③学校のキャリア学習と上手く連携できなかったこと、などがあげられます。
 商業高校では、企業について多くを学ぶ機会が多いため、その知識と『キャリアノート』を上手く連携させることができれば、非常に役に立つツールであることが分かりました。この2年間の経験と蓄積を活かし、3年次では例年以上の進学実績が出せることを目指したいと思います。今後は、3年間継続して『キャリアノート』を活用し、そこから見えてきた課題や反省を踏まえながら、有意義な学習計画を模索していきたいと考えています。

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