地元では「浜工(はまこう)」として親しまれている浜松工業高等学校は、来年、創立100周年を迎える。元浜松市長をはじめ、県・市議会議員、地元企業の社長など、地域の中心となって活躍する卒業生を数多く送り出している。伝統と創造が求められる中で、平成25年度より文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、新しい「浜工」がスタートしている。
◆浜松工業高等学校の「三つの保証」
浜松工業高等学校では、人間性豊かにして、勤労を尊び知性と創造性に富む工業技術者を育成するために、教育目標として「三つの保証」を掲げている。地元に信頼され、貢献できる人材(人財)を輩出するには、〈人間力〉を鍛え、〈工業技術力〉と〈学力〉を身につけるために「生きる力」を養い、生徒と教師がお互いに協力し合い、個々の資質を高めていくことができるよう努めることが大切である。
本校には全日制と定時制の2つの課程がある。全日制には、システム化学科、デザイン科、建築科、土木科、機械科、電気科、情報処理科、理数工学科の8学科が、定時制には工業技術科の1学科がある。「モノづくりの基礎を学びながら大学進学を目指す」理数工学科は、平成24年度に増設され、国公立大学への進学を目指している。また、平成25年度には、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、「世界に羽ばたく科学技術者の育成に向けた教育課程」をテーマに研究を行っており、世界を舞台に活躍できる人材育成研究のための取り組みを、学校全体で進めている。
◆進路指導の概況
平成26年3月卒業生の進路状況は、全体の約6割が就職となっている。その就職者の多くは地元を希望しており、希望者の8割が地元へ、その中の7割以上が製造業に従事している。
進学者の約7割が高校で学んだ専門知識を深めようと、理工学系(化学・建築・土木・機械・電気電子)、情報系を希望している。デザイン科の生徒は、美術大学や専門学校のデザイン系への進学を希望している。また、国公立大学合格者数は、ここ数年15人前後で推移している。
本校の進路指導においては、就職指導を多くの生徒に行うとともに進学指導も必要なため、LHRを利用した多彩な進路行事ときめ細かい指導を行っている。
静岡県立浜松工業高等学校 年間計画
◆『キャリアノート』を使用した進路指導
(1)テーマ2. 入門 自分発見
■学習のねらい
1. 自己の性格、興味・関心、能力、適性の傾向を知り
自己理解を深める。
2. 自分を知る方法(3つ)について学ぶ。
■実施時期
1学年、年度の比較的早い時期の5月20日に実施
進路選択を早めに意識付けできるように、先ずは自分自身を知り、隠れた自分を発見することから始めた。高校3年間で、何を学び、どのような高校生活を送るかを決定する大事な作業だと考えている。授業後のアンケートによると、「『キャリアノート』で学習したことにより意識が高まった。」とする回答が61%となり、少なからず効果があったと感じている。
(2)テーマ3. 職業 いろいろ発見
■学習のねらい
1. 職業について考える機会を設けて、自分の興味・関心を
生かせる職業について考える。
2. 働く目的となる、経済性・社会性・個人性について学ぶ。
■実施時期
1学年、2学期の初め9月9日に実施
進学希望者も同様に、職業意識を高めるために実施した。「〈職業〉についての意識が高まった。」とするアンケートの回答が61%あり、「やりたい仕事」と「出来る仕事」は必ずしも一致するとは限らないので、職業に対する意識を高めてから自分にあった職業を探していく際に役立った。
(3)テーマ5. 高校3年間の設計図
■学習のねらい
1. これまでの高校生活で取り組むべき課題について具体的に考える。
2. 自分が将来どのように生きていきたいか目的意識をもち、
目的達成のために現在をどのように生きていくかを考える。
3. 自分が将来どのような生き方をしたいかを考えることを通じ、
さまざまなライフスタイルについて考える。
■実施時期
1学年、3学期中旬の2月3日に実施
私はデザイン科の教員であるため、作品を作る時には、日頃から生徒に対して「逆算して計画を立てよう。」「現状を知ろう。」「問題意識を持とう。」と伝えている。「何を」「いつまでに」「どのようにやり切る」ためには「具体的な計画」が大切である。進路指導も全く同じであるといえる。この『キャリアノート』は、私が常に考えていることがそのまま形になったような教材で、特にこのテーマの「やってみよう4 ライフタイムマシン」は、「自己実現には現在と近未来を同時に考える必要がある。」という考えとマッチしているワークだと思った。
(4)テーマ11. 企業とその仕事を知る
■学習のねらい
1. 企業の組織とそこでの仕事についての基本的な理解を
深める。
2. 仕事や社会について具体的なイメージをもつことで、
現実的な職業理解や職業観の育成につなげる。
■実施時期
2学年(主に就職希望者)。1学期下旬の7月8日に実施
本校の生徒は地元志向が強いため、地元に馴染み深い企業の資料を用意して学習を進めた。資料にあげた企業は、運輸事業、商品販売事業、レジャーサービス事業、不動産事業などがある総合企業であるためイメージがつきやすく、ワークにあわせて調べ学習を行った。実施後は、「様々な地域に貢献するのも働くことの意義だと思った」、「自分でまとめることで、企業についてよく理解できた」など、意識の高いアンケートの回答がみられた。また、「来年度の就職の際に、企業の種類やしくみを知ることが大事だと思う」という回答もあり、『キャリアノート』を使用した意義を感じた。
(5)テーマ14. 進学先をリサーチしよう
■学習のねらい
1. 高校卒業後に進学する上級学校を調べる際の観点、
手順、方法を学ぶ
2. 自分に合った学校や学習分野を選ぶ方法を学ぶ
3. 上級学校を調べることを通して情報活用能力を身につける
■実施時期
2学年(主に進学希望者)、1学期下旬の7月8日に実施
このテーマを実施後に行ったアンケートでは、85%の生徒が、進学する理由について確認できたという回答だった。しかし、具体的なイメージを持てない生徒も多く、進学先を決める前に、「将来なにになりたいのか。」、「何がしたいのか。」を明確にすることが大切だと感じた。
(6)テーマ20. コミュニケーションスキルズ
■学習のねらい
1. コミュニケーションを円滑に行うためのスキルを身につける。
2. 身につけたコミュニケーションスキルを活用して、
望ましい人間関係を構築する。
3. 上級学校を調べることを通して情報活用能力を身につける。
■実施時期
2学年(主に進学希望者)。1学期下旬の7月8日に実施
ひと昔であれば、製造業は「仕事ができれば無口でもよい。」などと言われ、工業高校の生徒も同様に扱われてきた。しかし、最近では職人であっても営業をする時代となり、様々な場面でコミュニケーション力が求められていることは、生徒もよくわかっている。また、せっかく就職しても、人間関係が築けず、離職してしまう生徒も少なくない。企業側も「コミュニケーション能力」を重視しており、コミュニケーションスキルに関しては、就職や進学の面接の場面のみの対策で終わらせることはできないと感じている。
◆今後の課題と抱負
本校は8学科あり、各学年は10クラスに分かれている。県下でも上位の規模を誇る。就職と進学希望者に向けた進路指導を行っている。就職については、大手企業からの求人を多くいただいているが、この恵まれた状況に応えられるよう、人間教育をしっかりと進めたいと考えている。一方、進学においても、国公立大学を目指す生徒も出てきているため、いかに育てるかが課題と考える。
進路指導を行うにあたっては、各社小冊子が出回っているが、『キャリアノート』は場面に応じて選択ができることが利点である。LHRの時間の確保や実施の単位を学年・クラスのどちらにするか、など課題はある。アンケートからは成果がわかる生徒たちの声を聞くこともできるので、継続して使用していくことができればよいと考える。