『高校生のキャリアノート』を活用した
進路学習の取組みについて

1. はじめに

 浜田水産高等学校海洋技術科の岡本と申します。『水産教育と針路指導』というテーマで発表いたします。船が航行する際、どの方向を向いて航行すればよいかを、北を0度、南を180度として360度で定めます。これを「針路」といいます。生徒たちの進路も、目標に向かってどのように進めばよいのか、今自分はどこを向いて進んでいるかを考えたとき、船の針路と同じだと思い、敢えてこの「針路」という漢字をテーマ名に充てさせていただきました。

 

2. 本校の概要

 本校のある浜田市は、島根県の西部、日本海に面した市です。全国に誇れる海・山などの美しい自然と、石見神楽やユネスコの無形文化遺産に記載された石州和紙などの伝統文化、海水浴場・スキー場・水族館(しまね海洋館アクアス)など豊かな自然を活かした観光資源を有し、さらに高速道路・港湾などの都市基盤や大学・美術館をはじめとする教育文化施設も充実した、人と文化の調和のとれた中核都市です(資料1)。
 本校は、海洋技術科と食品流通科を有する水産高校です(資料2)。海洋技術科は、2年次から、航海士を目指す「海洋コース」と、機関士を目指す「機関コース」に分かれます。生徒は、1年次に両コースの専門科目や実習を全員で受講し、学年終了時に自分に合ったコースを決めなければなりません。海洋技術科は、さらに本科卒業後、上級の海技士の免許取得を目指す専攻科というものもあります。専攻科は全国水産系高校43校のうち22校しかありません。また、食品流通科は、水産食品の製造加工、開発それから流通に関する専門知識と技術の習得を目指します。
 令和3年4月1日現在、在籍者数は、本科生129名、専攻科生20名の全149名です。本科生・専攻科生を合わせると3分の1が県外生となっています。

▼資料1 島根県浜田市の地図

▼資料2 学科構成

 

3. 各学科について

 海洋技術科には令和4年現在、1年生が31名、2年生28名、3年生20名の計79名が在籍しています。海洋技術科では船を運行するための免許「海技士」だけでなく、「1級小型船舶操縦士」の免許も取得することができます。「1級小型船舶操縦士」の免許があれば20トン未満の小さな船を操船することも可能です。
 2年次に「海洋コース」と「機関コース」に分かれますが、自分のコースを選択する際、色覚検査の結果が大変重要になってきます。「海洋コース」では、船橋において船の操船や見張りの技術を身に付けなければなりません。夜間には、周囲に船がいないかどうか確認しながら航行しなければいけませんが、その際レーダーや目視による見張りが重要になります。船は、右側に緑色の灯火、左側には赤色の灯火を点灯させることによって、ほかの船からどの方向にその船が進んでいるかが分かるようになっています。そのため色の区別ができないと思わぬ事故につながってしまいます。また、「機関コース」も同様です。機関室内はたくさんの配管が備えられており、それらを区別するため、配管には海水管であれは緑色、燃料なら赤色、潤滑油なら黄色といったように、それぞれ色のついたテープが巻かれています。色の判別ができないと「海洋コース」と同様、事故につながってしまいます。色覚検査の結果が重要となる理由です。
 海洋技術科ではまた、練習船として「あわしま」と「みずたか」の2隻を保有しています。さらに、遠洋漁業に対応できる練習船「神海丸」もあります。全国の水産高校の練習船の中で一番大きなサイズで、重さは699トンです(資料3)。
 「神海丸」は沿岸から遠洋にわたる漁業実習や、航海・機関実習に対応できるよう最新の機器を搭載しています。また、学習室を新設して教育環境を充実させ、生徒室を拡充するなど快適な居住環境にも配慮しています。生徒たちはこの「神海丸」内で起床から就寝まで規則正しい生活を送るとともに、船という限られた空間の中で、仲間と協力しながら船の学習や実習に取り組みます。1学期の国内航海は、専攻科生のみが乗船し、北海道から沖縄まで各港を寄港しながら「上級海技士」を目指して船の知識を習得します。2学期・3学期のマグロ「延縄(はえなわ)」実習では、海洋技術科2年生が専攻科生とともに乗船し、日付変更線を超えてハワイ近海でマグロ操業を行い、航海、機関の技術向上を図ります(資料4)。生徒たちは、浜田での学びを起点に「全国世界で羽ばたくスペシャリストになろう」をスローガンに、日々勉強や実習に励んでいます。

▼資料3 練習船「神海丸」

▼資料4 マグロ操業航海実習

 

 食品流通科は1年生18名、2年生12名、3年生20名の計50名が在籍しています。水産食品を作る知識を学び、基礎実習で食べ物を加工します。新しい衛生管理の手法「ハサップ(HACCP)」の授業も行われ、実習にも取り入れています。「ハサップ」は食品工場や小規模事業者、飲食店の食の安全を守るうえで重要な食品安全システムのことで、最近では事業規模ごとに「ハサップ運用基準」を分けられ義務化がなされるようにまでなりました。実習製品には、新巻鮭、鯖缶、鮭缶、イカの塩辛、アジ・ノドグロの一夜干し、蒲鉾、天麩羅、タコとイカの燻製、スーパーでも販売されているおすすめの魚醤キムチがあります(資料5)。3年生の課題研究では、地元食材を使った商品開発に取り組んでいるグループもあります。「ノドグロふりかけ」は現在、広島のふりかけ製造会社「みなり」さんで作っています。「サバカレーパン」はTV番組『マツコの知らない世界〜カレーパンの世界〜』でご当地カレーパンとして取り上げられました(資料6)。現在、東京都「日比谷シャンテ」の島根館で、海洋技術科のロープワークのワークショップと並行して、製品販売を実施する企画を立てています。

▼資料5 食品流通科の実習商品

▼資料6 食品流通科の新規開発

 

 各科のカリキュラムで取得できる資格ですが、海洋技術科では「海技士」や「小型船舶」といった船の免状のほかに、「ボイラー技士」「ガス溶接」「冷凍機」などの資格も取得することができます。食品流通科では、「HACCP検定」のほか「食品技能検定」があり、合格して認定されると、認定カードが発行されます。また「食品技能検定」の1類、2類、3類の全類に合格すると、全類合格者として表彰され、さらに「HACCP検定」にも合格すると「食品技能検定スペシャリスト」として認定されます。両科でも取得できる資格としては「ワープロ検定」「危険物」「潜水士」などがあります(資料7)。

▼資料7 取得できる資格

 

4. 進路状況について

 卒業後の進路は、半数以上が就職しており、高卒採用を募集する企業にとっては貴重な存在であると自負します(資料8)。最近の企業の求人状況ですが、コロナが猛威を振るっていた令和2年度には約600件と大きく減少しましたが、その後回復し、令和3年度1月末時点で832件を受け付けました。これは過去10年間で最高の求人件数になります。生徒たちは大量に届いた求人の中から、応募先を一つだけ決めるという少し悩ましい選択を迫られました。次年度はさらに増えることが予想されます。資料8の「海上」と記してあるものが船舶関係になります。就職する生徒は、九州から北海道まで広範囲に就職をします。また、船舶関係の求人票は厚生労働省が管轄するハローワークではなく、国土交通省が管轄をしています。

▼資料8 主な進路先 

 

5. 『高校生のキャリアノート』を活用した進路指導の取り組み

 本校の令和2年度の進路指導実践について説明をします。教材として『高校生のキャリアノート』(全国高等学校進路指導協議会編集/以下『キャリアノート』)を活用しました(資料9)。

▼資料9 使用した『高校生のキャリアノート』

 

 1学期には、6月8日に全学年対象の「先輩と語る地元企業職業セミナー」を実施しました。このセミナーには地元に就職した卒業生に来校してもらい、在校生と仕事内容について話をしていただきました。実施の前には『キャリアノート』<テーマ11 企業とその仕事を知る>に取り組み、仕事や会社についての基本的な理解を深めました(資料10)。
 7月5日〜7月9日までの5日間は各学年に分かれて「学年別活動」を実施しました。
 3年生は集中進路指導と称し、進路実現に役立つ重要な学習として、『キャリアノート』<テーマ16 進路先へジャストフィット><同17 仕事選びのステップ><同19 自己PRスキルズ><同20 コミュニケーションスキルズ><同23 進学・就職 合格文章術><同24 面接試験トレーニング>に取り組みました。
 2年生は、生徒たちが興味・関心のある企業へ行き、実際に仕事を体験するインターンシップを行いましたが、見学や体験を実り多いものにするために、『キャリアノート』<テーマ12 職場 リアル体験>に取り組みました。1年生はカッター訓練(12人でオールを使ってカッターというボートを漕ぐ訓練)を行いました(資料11)。

▼資料10 1学期「先輩と語る地元企業職業セミナー」

▼資料11 1学期「学年別活動」

 

 2学期には、11月10日に一日を費やして、2年生を対象とした就職ガイダンス行いました。外部業者から講師を派遣してもらい、面接の仕方や礼法指導等についてガイダンスをしていただきました。時間内に『キャリアノート』<テーマ17 仕事選びのステップ>に取り組みました(資料12)。
 11月15日には、午後2時間を充て1・2年生を対象とした「進路ガイダンス」を実施しました。当日は看護系や自動車整備関係、美容系・調理系などの専門学校のほか、自衛隊の方々まで幅広く参加していただきました。時間内に『キャリアノート』<22 進学 マネープランニング>に取り組みました(資料13)。

▼資料12 2学期/就職ガイダンス

▼資料13 2学期/進路ガイダンス

 

 12月8日には海洋技術科2年生を対象とした「船員就職セミナー」を実施しました。中国地方の内航海運会社4社に来校していただいて、内航海運の重要性や船員の仕事内容について説明をしていただきました。時間内に『キャリアノート』<17 仕事選びのステップ>に取り組みました。(資料14

▼資料14 2学期/船員就職セミナー

 

6. 最後に

 寮について説明をします。本校には遠方から入学した生徒を対象とした「望水寮(ぼうすいりょう)」という寮があります。令和4年7月1日現在、本校には専攻科生を除く生徒129名のうち、寮生は38名います。寮は全室冷暖房完備で、食事は朝・昼・夕食すべてを業者委託により、栄養士がカロリー計算した食事を食べています。寮生は6時45分に起床、その後点呼、朝食の後に登校します。夕食は午後6時30分、夜の点呼のあと学習、掃除、午後11時に消灯となります。
 生徒たちは朝の点呼から就寝に至るまで、決められた時間とルールを守り、規則正しい生活を送っています。また、地域との関わりを大切にし、町内ゴミ清掃だけでなく「浜っ子まつり」という地域の祭りで、大名行列に参加するなどしています。島根県立浜田水産高校は、生徒一人ひとりが将来の目標をしっかりと見つめ、その目標に向かって進むことが出来る、水産・海洋のスペシャリストを目指す学校です。

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