本校の第1学年における『高校生の進路ノート ベーシック』の活用例

1. 本校の概要

 本校は、令和3年度に創立86周年を迎えた歴史のある工業高校です。5学科から成り、1学年から3学年の全体で工業化学科、情報技術科、理数工学科は各3クラス、電子機械科は6クラス、電気科は4クラス編成となっています。ICTを活用した授業環境の整備がなされ、校内でのWi-Fiアクセスポイントが完備されています。
 理数工学科は、工業学科から理工系大学進学を目指そうという取り組みによって、千葉県初となる工業専門学科として平成28年に誕生しました。工業に関する基礎知識・技術の習得に加えて、大学進学に対応できるように数学・理科・英語の授業時間数を強化し、さらに「課題研究」の時間や「工業技術英語」「工業活用英語」「工業探求英語」「産業工学研究」など充実したカリキュラムとしました。理数工学科の生徒は全員、iPadを持っていますので、クラウドシステムを利用した授業展開をしています。平成27年度から29年度においてはSPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)の指定を受け、成果がありました。

 

2. 近年の進路状況

 全体の進路状況ですが、平成30年度に理数工学科の一期生を輩出した5年前と比べて就職がかなり減少しました。一時期は就職者数が180~190名という県内でも非常に多い学校として有名で、平成30年度は186名(69.1%)、令和4年度は129名(57.1%)と、12%も減少しました(資料1)。そのかわり進学希望者は増加(29.4% → 39.4%)となりました。本県だけではなく、全国的にも同じような状況が起きているのではと思います。
 就職に関しましては、令和4年度の有効求人倍率は20倍という非常に高い数値をいただいています(資料2)。1回目の試験の合格率を上げていこうというのが進路指導の第一目標で、一次試験の合格率は94.6%でした。進学については、今までは学校推薦型、総合型の選抜で合格している生徒が多かったのですが、理数工学科があるので、今年度は一般選抜で受ける生徒が多くなりました。

▼資料1 進路概況(過去5年間)

▼資料2 就職状況(過去5年間)

 

3. 進路学習への取り組み ~『進路ノート ベーシック』の活用

 初任教員が「キャリア教育をとおして、生徒が自分の在り方や生き方を考える時間を持ち、主体的に進路選択する力を育成するにはどうしたらよいか」とかなり高度なことを言ってきたので、それなら進路学習をサポートしてくれるワーク型の教材を使用するのがよいと思いました。
 本校では実務教育出版の教材『ステップアップ一般常識』と『SPI対策問題集』を2年次で購入し、長年にわたって朝自習やLHRで使用していましたので、同社のラインナップにあるワーク型教材の中からテキストを選定しました。1学年が対象でしたので、漫画やイラストが出ていてわかりやすく、教材の中の主人公も同じ1年生なのですんなり入っていけるのではないかと思い、『高校生の進路ノート ベーシック』を活用することになりました。

 

 1学年の行事の中に組み込んで、全体でやる場面とクラスでやる場面に分けて活動していったらよいと考え、まず令和4年5月17日の1学年集会において、「今回、このような『進路ノート ベーシック』を使います」という説明を行いました。
 私としてもやり易かったのは、1学年の学年団が積極的に取り組んでくれたことです。LHRの時間というのは前の年度にスケジュールを押さえてしまうのですが、「もう一度改めて検討し直して、「進路ノート」を使った行事をなるべく多く組み入れてもらいたい」と要望したところ、いろいろなところに「進路ノート」を使ったHRや今回のような集会を入れていただきました。
 学年集会はクラスの机ではなくすべて体育館で行い、生徒同士がどのようにやっていくかを話し合っていました(資料3資料4)。

▼資料3 1学年集会

▼資料4 生徒同士で話し合いの様子

 

 「次は7月6日に各HRにて実施します」と告知をして、「『進路ノート ベーシック』第1エリア「自分を知ろう」の中にあるワークシート1「自分の個性を発見しよう」と、ワークシート2「適性とは何だろう」をやりますので考えておいてください」と連絡しておきました。各クラスのLHRの時間等を使い、iPadを用いたりいろいろなやり方で実施してもらいました。

 

4. 『進路ノート ベーシック』を活用した取り組み

◎ 9月『進路ノート ベーシック』 第1エリア「自分を知ろう」

 9月は6限目に体育館で行いました。
 ワークシート1「自分の個性を発見しよう」から入り、私と担任団は生徒の間を回ってサポートしていましたが、生徒たちは意外と自分から発見できている部分がありました。
 ワークシート2「適性とは何だろう」では、イラストでわかりやすく構成されているので、生徒同士で話しながら考えることがとても多かったように思います。
 次に、ワークシート3「ポジティブチェック」では「長所」と「短所」を見つけていきます。3年生の就職希望者でも「長所」や「短所」をなかなか言えないところがあります。テキストでは、「私の良いところ」として元気、誠実、礼儀正しいなどいろいろ挙げてありますが、自分はどこに当てはまるかを、周りの人と一緒にやりながら見つけていくことが出来たと思います。
 「長所を言えますか」と生徒に問いかけてみたところ、3年生のような回答をしてきた生徒もおり、レベルの高さを感じました(資料5)。

▼資料5 「長所を言えますか?」の回答例

 

 「短所」はどうかと尋ねると、「短所はない」という生徒がいます。これはおそらく自分ではわからない、言いづらいのだなと思い、「短所がわからなければ友達に聞いてみてはどうか」とアドバイスしながら進めていきました。
 また、「私の短所は、気が短いところです」という回答例について、「もう少し工夫して言えるところはないか」と投げかけたところ、ある生徒が「少し」という言葉を入れてきました。「なぜか」と聞いたところ、「“少し”という言葉を入れると、短所も少し小さくなるのではないでしょうか」という答えが返ってきて、これは最もだなあと、非常に高く評価しました(資料6)。
 このように、うまく言える生徒、わからないでいるような生徒などさまざまなので、その場で画面入力してスクリーンに映し、「このような言い方もありますよ」と発想を広げていきました(資料7)。

▼資料6 「短所」の言い方を一工夫

 

▼資料7 スクリーンを見る生徒達

 

◎12月1日『進路ノート ベーシック』 第2エリア「上級学校を考えよう」

 12月1日、LHRの時間に「進学する」「就職する」というテーマで、第2エリア「上級学校を考えよう」第3エリア「職業を知ろう」を実施しました。
 第2エリアクローズアップ1「上級学校の種類を知ろう」では、大学・短大・専門学校・専門職大学など上級学校の種類について考えさせ、ワークシート1「職業と専門学校の関係は」では、大学進学も就職も、どのような分野に行きたいかというところは同じなので、「どんな分野があるのかということだけでも考えてみてください」と説明し、いろいろな分野があることを学びました(資料8)。

 ワークシート2「興味・関心と学問分野の関係は」ではどういう分野が自分に向いているのか、第3エリア「職業を知ろう」では職業の種類や特色について、教師のほうから「希望する分野」や「コンピュータの仕事にはどういうものがあるか」などの質問を投げて、それについて生徒が各々回答していくようなことをやりました(資料9)。「これから期待できる業界は何だろう」と質問したところ、IT業界が一番に出てきたのが印象的でした。

▼資料8 上級学校を考えよう
「職業と専門学校の関係は」

▼資料9 職業を知ろう
「職業の特色について考えよう」

 

◎12月15日・16日 3年生による合格体験談

 『進路ノート ベーシック』の中の「職業インタビュー」「先輩たちの生き方インタビュー」「先輩たちの進路選択インタビュー」の部分を活用し、「3年生による合格体験談」を12月15日に1年生、16日に2年生を対象に体育館で行いました。
 3年生は就職(内定)、進学(学校推薦型、総合型で合格)のそれぞれ代表者で、とても上手に発表していただき、質問等にも的確に答えていただきました。先輩たちの進路インタビューでは、「毎週金曜日の朝学習に、1年生のうちから参加することを勧められた」「機会があったら会社見学会に積極的に参加すべき。ホームページだけでは伝わらない部分がある」「自己PRについて今から準備しておくこと」「早めにやりたいことを見つけること」「学校見学、オープンキャンパスに今から参加するように」「資格取得には積極的に取り組むこと」などがありました。
 最後に「進路ガイダンス」を行い、就職を現時点で考えている生徒は体育館に、大学・短大等は視聴覚室、専門学校は別の教室に分かれ、『進路ノート ベーシック』を持参してもう一回振り返るということをさせました。
 1学年全体で『進路ノート ベーシック』を使用しましたけれど、今後の課題として、どのように今年度の取り組みを2学年に継続していったらよいかを検討していく必要があります。

 

5. まとめ

 最後に本校の課題として、生徒の実態に合わせた力をどのレベルまでどう具現化していけばよいか、専門性の育成を図る上で必要となる基礎学力の確実な定着を目指すにはどうすればよいか、多様な学習成果を測定するツールの充実などがあります。
 また、本校は【キャリアパスポート】について、まだまだ不足している部分があるため、どのようなかたちで教材等を利用しながら進めていったらよいのかについても考えていかなければなりません。生徒が自ら学ぶこと、あるいは自己の将来へのつながりを見通すことが出来る教育活動が重要になってくると思います。
 以上、1学年がスタートした今年度の取り組みについて、ご説明させていただきました。来年度以降この学年が2年・3年となっていくわけで、課題等をこれからどのようにしていくか、進路指導部と学年団とで検討していけたらと思っております。

 

(※私事ですが、令和5年3月末で定年退職いたしました。)

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