キャリアノートを活用した本校の取り組みについて

■ 本校の概要

 本校は愛媛県松山市にある男女共学の工業高校です。全日制8学科(機械、電子機械、電気、情報電子、工業化学、建築、土木、繊維)、定時制2学科(機械、建築)で構成され、全校生徒は約1,000人おります。学習内容はもちろん、男女の人数比や学力レベルなども、各科でさまざまです。
 部活動が非常に盛んで、ほとんどの生徒が部活動に所属し、運動部、生産部、文化部のそれぞれが高い成果を上げています。「愛媛県の県立高校の中でも、最も全国大会に近い高校」ということを謳い文句にしています。
 また本校では、資格取得とキャリア教育に密接な関係があると考え、資格取得に積極的にトライさせております。全国約600校ある工業高校の中でも、上位数校しか取れない全国学校表彰を、毎年受賞させていただいております。全国工業高等学校長協会が認定するジュニアマイスター顕彰制度では、2017年度にゴールドが54名、シルバーが70名と、それぞれ取得することができました。中には、全国でトップのポイントを稼ぎ、最高賞である経済産業大臣賞を受賞した生徒もおりました。本校では、一人平均5種以上の国家資格を取ることは当たり前で、10種以上取得する生徒もいます。
 卒業後の進路状況も各科でさまざまです。私が担当した機械科では、卒業生39名中、就職者32名、進学者7名で、就職者の割合は82.1%でした。情報電子科など、進学がメインの科もあります。就職内定率は毎年100%で、県内外の大手企業からも内定をいただきます。有名大学の卒業生とも肩を並べて研究開発や実験を担当することができるので、高卒だからといって甘えることなく、しっかりとしたスキルを持った生徒を送り出していかねばいけないと考えます。

【卒業後の進路状況】

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 さらに本校では、ICT機器を活用した「アクティブ・ラーニング」を取り入れた指導を実践しています。平成30年度の入学生から全員にタブレットを導入し、学習支援クラウドサービスを活用しながら、授業や進路指導に活用できるような研究・実践を行っています。

 

■ 進路指導(キャリア指導)について

 本校では、愛媛県教育委員会の指定を受けて、平成23年度から3年間「高校生地域産業担い手育成事業」を、平成26年度から3年間「次代を担う地域産業技術者育成事業」を実施しました。現在は、平成29年度より「地域産業スペシャリスト育成事業に取り組んでおり、補助をいただきながら、さまざまなキャリア教育を研究・実践しています。その内の5つについて簡単に説明します。

【育成事業】

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【5つの指導】

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 1つ目の「最先端技術等に触れる 体験型企業研修・見学」は、企業見学です。ポイントは、会社調べや質問内容の検討等、事前指導をじっくりと時間をかけて行うことです。
 2つ目の「研究成果発表会」は、年度終わりに開催します。3年生が在校生に向けて、それぞれの進路体験を発表する内容です。企業の方々も招いて、いろいろなアドバイスをいただき、在校生に進路に対する意識付けをしっかりと行なうことが目的になります。
 3つ目の「インターンシップ」ですが、約120社の協力を得て、平成28年度は5日間、平成29年度は4日間行ないました。体験後の生徒は、非常に高いスキルを身に付け、生まれ変わって帰ってくるのを毎年実感しております。
 4つ目の「マッチングフェア」は2年生全員を対象とした企業説明会です。各企業が体育館等にブースを設け、生徒は各企業ブースを移動して説明を受けます。生徒からは、専門分野以外のジャンルの会社も見学でき、非常に有意義であるといった感想がありました。「デュアルシステム」は、インターンシップ以外に行なう、長期にわたる就業体験です。主に内定先の企業に協力いただき、毎週4時間から6時間、半年から一年間かけて実施しました。企業からは、スムーズな入社に役立つと言うよい意見もありました。指導側でも離職率の軽減にもなったと評価しています。
 5つ目の「外部講師による技術技能講習会・講演会」では、各科が外部講師を招き、移動式クレーンの学習会を行なったり、伊予絣という愛媛の伝統工芸を体験したりと、さまざまな専門分野の講習会を行ないました。

【企業見学】

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【研究成果発表会】

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【マッチングフェア】

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【外部講師講習会・講演会】

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■ 『高校生のキャリアノート』の活用事例と考察

 『高校生のキャリアノート』は、2年生と3年生の2カ年計画で取り組みました。事前に生徒にアンケートをとり、将来就職するにあたって不安に思っていることを聞いたところ、「仕事が覚えられるか」「人間関係がうまくいくか」「就きたい職種につけるか」「自分にできる仕事があるか」、ということが挙がり、不安解消のために『高校生のキャリアノート』から5つのテーマをピックアップしました。<テーマ4 インタビュー職業人><テーマ9 レッツスタート高校2年生><テーマ17 仕事選びのステップ>の3テーマを2年生で、<テーマ19 自己PRスキルズ><テーマ20 コミュニケーションスキルズ>の2テーマを3年生で、そして『高校生の進路ノート ベーシック』をそれぞれの参考書として位置付け、併せて活用しました。
 
 まず取り組んだのが、<テーマ9 レッツスタート高校2年生>です。2年生の4月に実施しました。学習のポイントは、2年生での具体的な目標を定めること、そして、1年間をなかだるみなく過ごすためにしっかりと計画を立てることです。本テーマは、生徒の曖昧だった目標を具体化させるために役立ちました。最初は目標を聞いても部活動での成果を上げる生徒が多かったのですが、授業後に行った生徒の反省(良い点)では、は「多方面から進路に関する目標をしっかり定めることができた」というような内容がほとんどでした。

【主題等】

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【授業展開等】

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【生徒の回答】

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 <テーマ4 インタビュー職業人>は、2年生の12月に実施しました。自分が興味のある仕事に就いた先輩にインタビューを行なうことを最終目的とし、そのための準備をするというのが本テーマです。働く意義、価値観を、実際に働いている身近な人から聞き出すために、コミュニケーション能力、正しい言葉の遣い方等を学習しました。電話依頼時の注意点や確認事項が非常に分かりやすく書いてあるので、それにならって生徒も段階を踏んで、インタビューまでしっかりたどり着いたようでした。冬休み等を利用してインタビューを行ない、3学期に発表会を開催しました。インタビュー後のワークである「職業人インタビューまとめシート」を見ると、児童福祉の関係に興味を持っている生徒が、「子どもたちと接することで、お金や地位じゃない、自分のやりがいのある仕事を見つけたいと思った」という記述がありました。実際に働いている人にインタビューを行なうことで、仕事の意義などがしっかりとわかったのではないかと評価しています。発表に際して,生徒は、タブレットやスマホのようなICT機器を活用して行ないます。指導側もデータを保存しながら、生徒の提出状況等を管理しています。

【主題等】

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【授業展開等】

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【生徒の回答】

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 <テーマ17 仕事選びのステップ>は、2年生の2月に実施しました。本校では年度末に就職希望調査を行ないますが、その前に具体的な就職希望を絞り込むため、その年に届いた求人票を分析します。求人票の見方を再確認する意味で本テーマに取り組みました。近年は1,000社近い求人票があり、会社選びも煩雑になるので、しっかりと項目を絞って求人票を見てもらいたいという意図がありました。
 このテーマを用いて、非常に細かな求人票の内容を読み解くような練習になったと思います。授業後に行った生徒の反省(良い点)では、「仕事を選ぶ4つの視点で、自分の希望職種が明確になった」「この授業を通じて会社を客観的に見られるようなった」というような記述がありました。

【主題等】

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【授業展開等】

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【生徒の回答】

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 <テーマ19 自己PRスキルズ>は3年生の6月に実施しました。面接練習はこの時期から活発に行われますが、自分の長所をはっきりと言えないという生徒が、やはり一番問題です。本人が気づいていない長所について、他者もいっしょに考えてあげようということで、2人一組で模擬面接を行ないましたが、それが自己PRを見つけるよい材料になりました。本テーマでは、自己PR文を書くまでの段階を上手に分類してあり、流れに沿って取り組むと、自己PRがしっかりまとまる形になっていますので、生徒は非常に書きやすかったのではないかと思います。授業後に行った生徒の反省(良い点)では、「短所を長所としてとらえることのできる項目が役立った」「細かく自己分析をできた」「例文や自己分析の文が非常に工夫されていたので、面接で使えそうな内容がたくさんあった」というようなことがあがりました。

【主題等】

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【授業展開等】

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【生徒の回答】

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 最後に<テーマ20 コミュニケーションスキルズ>を、自分のコミュニケーションのスキルをさらに高めさせるという目的で、3年生の9月7日という就職試験が目前に迫った時期に実施しました。話し方も大事ですが、今回重点を置いたのは聞き方、観方です。面接官は、受験生が他の人の話を聞いている姿もチェックします。本テーマでは、話し方だけでなく、聞き方、言葉以外のコミュニケーションの大切さもしっかりと学習することができたと思います。授業後に行った生徒の反省(良い点)でも、「具体例が写真が使われていてよくわかった」「自分のコミュニケーションの足りない部分が細かく分かった」ということなどが挙げられました。

【主題等】

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【授業展開等】

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【生徒の回答】

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 進路に関するホームルームの締めくくりとして、進路が決まった10月12日に、進路決定後の生き方をしっかり考えてみようという意図で、『高校生の進路ノート ベーシック」を用いてホームルームを実施しました。自分の将来にイメージがわきにくいといった生徒も数名見られましたが、ほとんどの生徒は意欲的に自分の「未来予想図」を作成でき、明るい展望が随所に見られました。 先輩からのメッセージ等も集め、働くだけではなくて、豊かな生活を送るためには趣味や社会参加も大切だというようなことまで学習できました。

【主題等】

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【授業展開等】

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【未来予想図を作ろう】

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まとめ

 今回『高校生のキャリアノート』を活用したことにより、早い段階での会社選び、意識付け、地元企業へのインタビューを積極的に行えたのは非常によかったと思います。当年度は愛媛県で国体が開催されたため、3年生の夏の一番大事な時期に指導時間が取れなかったのですが、『キャリアノート』を活用したおかげで、時間を効率的に使うことができました。また、毎年問題になる早期離職について、本校は全国平均よりは低い離職率ですが、早い段階から会社選び、自己を見つめる、自分の適性に合った職種・企業を選ぶという指導を行なうことで、少なからず早期離職率の低下につなげられるのではないかと考えております。さらに、本校ではICTの活用も積極的行なっており、今後は例えばハローワークと提携して情報を吸い上げ、全国の工業高校で共有化できれば、紙媒体ではない、もう一つ先の『キャリアノート』ができるのではないかなと思っています。本校では『キャリアノート』を別売りのバインダーで綴じているのですが、卒業時に回収してみると、自分で集めた面接の質問事例集などの情報をファイルに蓄積して、オリジナルの『キャリアノート』を作っている生徒がおり、非常にうれしい感じがしました。今後も『キャリアノート』の活用について、さらに研究していけたらと思います。

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